第6話 贈り物

 リリアを部屋まで送り隣の部屋に入るニイナ。

 白い壁に合わない濃い茶色の机やベッド、本棚が置かれていた。その配置は自分の家そっくりで落ち着く部屋になっていた。


 ソファに座り、黒い丸眼鏡をつけ、着替えたニイナはため息をこぼし、貰ったラブレターを見る。


「本来なら、美人と言われる令嬢にラブレターをもらったら喜ぶものなんだろうな。私は感覚が狂ったのだろうか」


 ニイナは初恋どころか恋愛なんてしたことはない。昔から騎士としての心しか持ち合わせていなかった。


 ニイナは夜景を見る。すると、外には翡翠色の髪がなびいている少女、リリアが居た。

 ニイナはそれを見てコートを持ちリリアの居る庭園へと走る。




 リリアは悩んでいた。自分の感情に。

 頭をすっきりさせるために夜風にあたりに来たリリアは庭園で更に悩んでいた。


(ニイナは近衛なのに、好きになってしまった。どうしたら。私もニイナの事が好きな人間の一人、でも私は皆と違って落ちこぼれ。成績も魔法も何もできない。私の初恋は絶対に叶わないのかもしれない)


 そんな事を考えているとリリアの体にコートが被さる。


「リリアお嬢様。風邪をひきますよ…」

「に、ニイナ?」


 驚いてるリリアの横に座るニイナはリリアの知らない姿をしていた。

 黒い丸眼鏡をかけ、白いシャツに少し緩いネクタイ、でかめのズボン。寝る前だとわかる姿は新鮮でリリアの目を引き付けた。


「悩み事ですか?聞きますよ」


 心配するニイナにリリアはあなたの事で悩んでます。なんて言えず、別の悩みを吐き出す。


「私は、魔法も二種類しか使えない。勉強もできない落ちこぼれなんです。なのになんでこんな地位に居てこんな生活をしてるんだろうって」

「自分を落ちこぼれなんて言わないでください。リリアお嬢様は勉強も頑張ってます。今回の事だって本当の落ちこぼれは、出来損ないは、部下の事なんて考えません」

「…でも、私は考えることしか出来ない。力なんて持ってない」

「私だって、最初は何も出来ませんでした。平民出身の私は勉強も口調も守るものも、でも夢があったんです。騎士になって平民でも、出来るんだと、貴族になめられないようにしたいと」


 ニイナは平民で親も分からない。そんな事実は王家の者とエルしか知らなかった。


 ニイナが騎士を目指したのは貴族を驚かせたかった。平民でも出来るんだと、見くびるなと言いたかった。そのために騎士を目指した。

 字も読めない、剣も握ったことのない、ボロボロの少女は夢を目指して、どんな手段も問わなかった。泥棒も、奴隷にもなった。

 その結果、騎士になり。誰も越えれなかった壁を見事に打ち破った。


「努力は報われるべきです。たとえ、周りが、神が貴方を認めなくても。私はリリアお嬢様を褒めます、認めます。そしてそんな奴は私が薙ぎ払います」

「ありがとう…私、あなたの主として見合わないと思ってたの、でも…そっか釣り合う様になればいいんだ」

「リリアお嬢様…」

「ニイナ、私。あなたに合うような王女になります!そしてあなたを必ず落します!」


 リリアはそう言いながらニッと笑いコートを残して部屋に戻った。


「落とすとは一体…まぁ、いつか分かるんですかね」


 ニイナは庭園を見ると昔を思い出した。

 リリアの近衛になったばかりの頃を。



 働きすぎだとアルベルトに言われ、始めて休暇を使った時。息抜きに庭園に来たら一人の女の子が花冠を作っていた。


「何をしているんですか?リリアお嬢様」

「ふぇ⁉い、いや…何も?」


 戸惑うリリアは花冠を後ろに隠す。ニイナはそれを見て少し、意地悪をしようと思った。


「私、花冠作ったことないんですよね。教えてくれますか?」

「え…?作ったことないの?ふふん!なら教えてあげる!」


 リリアはニイナに花冠の作り方を教えることにしたが隠してた花冠の事を思い出して手を止めた。それと、手を止めたのに作り続けるニイナを見てこの人は自分に嘘をついたんだと思った。


「作り方を知らないなんて嘘じゃん」

「すみません。でもリリアお嬢様が作った花冠に比べればとても不格好ですよ」

「無理して、お世辞なんて言わないでよ。私の花冠は綺麗じゃ…あっ、」


 ニイナはリリアの後ろにある花冠を取り自分の頭にのせる。すると、リリアに向けて微笑む。

 リリアは俯いていたがニイナの顔を見て笑顔を見せた。


「似合いますか?」

「うん。うん!」

「ありがとうございます」


 ニイナが花冠を取ろうとしたときリリアは「ダメ!」と大きな声で止める。ニイナは驚きリリアは少し申し訳なさそうにする。


「それ、ニイナにあげる様につくったの。いつも、お世話になってるから…」

「私の為に…ですか。ありがとうございます。大事に保管させていただきますね」


 快晴の庭園には花冠を作りあう幼い王女と騎士の少女の笑顔であふれていた。




 ニイナは、花冠を作りあったあの日を思い出し。王女の成長を感じた。


 あの日貰った花冠はエルの保護魔法によりニイナの家に飾られている。あの花冠はニイナにとってとても大事な初めての贈り物だった。そしてリリアと仲が深まり始めた出来事でもあった。


 ニイナは思い出をかみしめ、部屋へと戻る。

 ニイナを廊下で見たメイドたちは見たことのない優しい表情をしながら部屋に戻っていったと話した。

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