第5話 芽生えた恋愛
その後、無事学園での授業もすべて終わり時間は午後六時。
正門にてニイナが馬車に乗ろうとした時、一人の少女の声がニイナを止める。
「待ってください!」
声の方向を振り返ると金髪のロン毛の少女が居た。
彼女は侯爵家の娘、ルリエ・トーカン。ニイナに何度もラブレターを送っていて、ニイナは本人は丁重に毎回断りを入れている。
今回の止めた件もラブレターだった。
ニイナは受け取りそっと微笑み馬車に乗る。
(何回も送られても気持ちは変わらないんだよなぁ)
馬車の中、リリアはニイナの眺めているラブレターを見る。
リリアの心の中には嫉妬と不安が募っていた。
「それ、どうするんですか…」
「いつも通り、断ります」
不安な声色で話すリリアに安心させるように断ると断言するニイナの発言。
リリアは安堵を覚えたと同時にいつ取られるか分からないという不安もまた覚えた。
王城に着くとメイド長が知らせを持ってくる。
「リリア王女様。陛下が食事を同席しないかと」
「分かったわ。お父様に着替えてから向かうと伝えておいて」
「了解しました。それと、ニイナ様も同席願えないかとの伝言です」
「私もですか…分かりました。同席しましょう」
メイド長が去ると、リリアは足を速め部屋に入る。
ニイナはリリアの部屋の前で待つことにすると横から足音が近づいてくる。
「おぉー!ニイナじゃんかぁ。今日は初めましてだね」
「最悪なタイミングだ…はぁ」
「ちょっとーため息とかやめてよね。おっさんっぽいよ」
「私は女だ」
揶揄う様に喋る白いコートを着た茶色の髪色をした女性。彼女がリリアの家庭教師兼王宮魔法使いの所長のエル・サイタンだ。
ニイナの幼馴染だからか立場も場所も関係なしのような口調でしゃべる。
「今から何しに行くのさ」
「王家の夜食に同席するんだ」
「もう王家の人みたいな扱いだねぇ」
「勘弁してくれ。私はそんな存在じゃない」
エルの発言に嫌そうな顔をするニイナ。
二人が他愛のない会話をしている間リリアの着替えが終わり、部屋から翡翠色の髪に合う、うすい淡い青紫色のドレスを着たリリアが出てくる。
「あれ?エル先生。何でここに」
「ニイナと話してたんだよ。それよりもそのドレス、似合ってるね」
「ありがとうございます!」
「ニイナも言いなよ」
エルがニイナの腰に肘で突き、にやにやとした表情で問うとニイナは口を開く。
「リリアお嬢様。とてもお綺麗です」
「ふぇ⁉あ、ありがとう………」
ニイナは優しい笑みをリリアに向けながら言うと、リリアは何時ものように顔を赤らめ、ニイナの差し出した手を取り父の居る場所へと向かう。
そんな二人を見送るエルはリリアの恋心を知っていた。いや、王城に勤める者は全員知っているのだろう。鈍感すぎるニイナを除いて。
それと同時にエルはニイナの持つリリアに対する忠誠心が純粋な忠誠心だけじゃないのを知っている。それはニイナがリリアを好いているという事に。本人のニイナは気づいていないが挙動や発言からエルは幼馴染として感じ取ったのだ。
「両片思いかぁ。どうくっつけるかねぇ」
王家が集う食卓に各近衛が一人ずつ居る。
「リリア。今日の学園はどうだった?」
「とても楽しかったですわ。お母様」
娘であるリリアに優しく微笑むリリアの母親こと王妃のミミア・イ・シャルティア。食卓の雰囲気は穏やかで和んでいる。
そんな中、一人のおっさんが口を開く。
「そうだ。ニイナ、騎士団の奴ら今回の訓練で負傷者が何名か出てしまってな」
「え?は…?あの、一体どういう」
「俺との手合わせで負傷した奴がいてなぁ。すまんすまん」
ガハハと笑うレオンにニイナは頭を抱えていた。
「お手伝いしますよ」
「ありがとうございますカイタス様」
国王の近衛であるカイタスが元上司のレオンの反応を見て過去を思い出したのか、ニイナを心配する。
騎士団という言葉を聞いてリリアは持ってきたノートを父親である国王に渡す。
「これは…」
「今日の授業で行った騎士団内の環境についての改善策です。お父様が良ければこの案を採用することは可能でしょうか」
「問題はないだろう。ニイナ殿はどうだ?」
「私もそのノートを確認させていただきましたが、取り入れることが出来るのならぜひ取り入れていただきたいです」
「分かった。なら明日、臣下たちと話し合って計画を進めよう」
父の言葉に喜ぶリリアは食事を口に運ぶスピードを速めた。だが、兄のアルベルトに止められ静かに食べる。
「にしても、ニイナ。今日は何時ごろ家に帰宅するんだい?」
「今から帰っても遅いので、騎士寮を使おうと思ってますが」
「あら!ならニイナにはリリアの隣の部屋を使ってほしいわ!」
「えーと、それはまた一体何故でしょう」
「近衛なら傍に居るべきでしょう?ニイナ以外の皆、主の隣の部屋に自分の部屋があるわよ」
「…分かりました」
王妃のキラキラとした目を見てニイナは押しに負けて了承した。
ミミアの表情がリリアそっくりでニイナは親子というのを強く感じた。
「ですが、着替えなどは一体どうすれば」
「エルに頼んで一部の服装を既に移動させといたんだ」
「最初から仕組んでたという事ですか」
「そういうことだ」
合鍵を持ってるのはエルだけなため、ニイナはすぐに誰が移動させたのか分かった。
食事を皆、取り終え各自部屋に戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます