第4話 英雄としての証

 持ってきた、弁当をリリアは食べながらふと、ニイナの方向を見る。

 ニイナは剣を抱きかかえながら座り、本を読んでいる。


「ニイナ、その本は何の本なんですか?」

「推理小説ですよ。恋に落ちた婦人が起こした事件です。リアルにもこんな事件がありました」

「え…?それじゃあそれはフィクションじゃないってことですか?」

「そうですね、私が初めて後処理をした事件でもあります。エルに読んでみろと勧められて読んでるんですが…私には恋愛というものが分からないようで、うまく感情が載りません」

「ニイナは恋愛をしたことがないんですか?」


 リリアの質問にうーんと唸るニイナは過去を振り返るが見当がつかず「ありません」と返事をした。


「なら、縁談とかは…」

「申し込みはありましたけど全て断ってます。まぁ、それのせいか二十五歳にもなって婚約者なんて居たこともありませんよ」


 ニイナは二十五歳、リリアは十二歳、十三の年の差がありながらもリリアはニイナに恋をしている。

 それは、周りが何と言おうと自分を守ってくれた一途に慕ってくれたからだ。

 外見しかみない他の奴らとは違い中身を見てくれたニイナにリリアはずっと恋をしていた。


「ニイナ、私は今日の授業で使ったノートをお父様にみせます」

「そういえば、授業では何をしたんですか?」

「騎士団の環境問題です。改善策をノートに書いたんです。それをお父様に見せれば、騎士団の環境が良くなるかもと思って…」

「なるほど。それ、見せてもらう事ってできますか?」


 リリアは持ってきたノートをニイナに渡すと、ニイナは真剣に読む。

 リリアは改善策がどうか、という事より自分の字が汚くないかを心配していた。だが、そんな心配をする必要は無かった。


(相変わらず、リリアお嬢様は綺麗な字で書くな…それよりも、こんな細かい改善策。一体どこから仕入れてきたんだ?でもこの改善策たちは行える許容範囲であり費用もそんなに掛からなくて済む、そして私たちの仕事も楽になるな)


 綺麗な字で書かれていた改善策はその環境にいる当事者であるニイナですらも驚くほど周りに配慮したものだった。時間も費用も掛からない素晴らしい事案だったのだ。

 ニイナはリリアにノートを返し、主の仕事ぶりに感激する。


「これなら、陛下も許容するでしょう。私からみても、今すぐにでも導入してほしい改善策ばかりでした」

「本当に⁉なら帰ったらすぐにお父様に見せるわ!その時はニイナにもついてきてほしいの…だけど」

「わかりました。お供しますよ。それよりも、リリアお嬢様、口調がはしたないですよ。完璧な淑女になるのではなかったんですか」

「うぅ…それは、今回ぐらいは見逃してください」

「そういわれると、許してしまいます。まぁ、今回はこの努力に免じて見逃しましょう」


 リリアに心底甘いのだなと自覚したニイナは自粛するよう努力することを決めた。

 


 ご飯を食べ終わると、授業のチャイムが再びなったため、ニイナはリリアを教室まで送り校庭の柱にもたれかかる。


「ここの景色、変わったなぁ。私が壊した噴水も元通りになってる」


 やんちゃ時代に壊した白い噴水。当時は水が溢れ出し、校庭が水浸しになっていた。柱も傷だらけで、壊れた噴水の破片が散らばっていた。

 ニイナは、噴水をどう壊したのか覚えていないが、その後の剛先生ことラルトにたんこぶができるほど強い打撃を食らったのは覚えている。


「あの打撃は痛かったな…泣きはしなかったが、あの打撃は二度と味わいたくない」


 そっと、打撃をくらった頭を触るが跡形もなく綺麗に治っているのを感じて自分の体の強さを知る。


 騎士団長として出撃した任務は数知れず、そのため何度も致命傷が体に刻まれる。でも、その傷は全て消えていく。そのたんびに不死身の団長と言われてきた。

 それでも一つだけ。治らない傷があった。



 リリアを守るためにかばってくらった傷。リリアが四歳の時、ニイナはリリアの近衛に任命された。


 ある日、リリアを狙った暗殺者が夜中に襲いこんだ。ニイナは未熟だったためか、かばうしか出来ず背中に剣が突き刺さり、リリアを抱きかかえながら倒れた。


 リリアは目の前で血を口から吐くニイナを見て泣き叫び、その声に気づいたメイドや騎士が駆け付けた時には暗殺者はおらず、倒れ込んだニイナを抱きしめるリリアだけが居た。


 ニイナはその後、治癒師のおかげで一命を免れた。ニイナはリリアが寝ている自分の手をずっと握っていた事を知り、この主を生涯守ると決めたのだった。



 当時の傷は未だ消えず英雄としてニイナの背中に刻まれている。ニイナはその傷を見るたびにさらに強くなろうと思えるのだった。


「ニイナ!ここに居たんですね。探しましたよ…!」

「すまみません。昔を思い出しまして…」

「なんですか?私の顔を見て」

「いえ、なんでもありません」


 迎えに来たリリアを見てニイナは生涯の主は貴方だけで最高の主というのは貴方の事を指すのだろうと思った。

 それと同時に、もしリリアが婚約してしまったら自分はどうなるんだろうと思い胸がチクッと痛み、違和感を感じたのだった。 

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