第3話 好きな人の寝顔
政治科の教室では、現在の騎士団の環境について学んでいた。
黒板には騎士団内での飯、訓練、寮、設備など事細かに書いてある。
生徒はそれをノートに写し改善策などを書き、周りの人と意見を交換する。
「飯はもっと豪華にするべきだと思いますの」
「新しい器具を入れるべきだと思うぞ」
「ご褒美とかあった方がやる気でると思うなぁ」
話し合う声が聞こえる中、微動だにしない少女が独り。
教師のラルトはそれに気づき少女の傍に行くと彼女のノートには理に適っている改善案がぎっしりと書かれていた。
「リリア王女。これは…」
「ニイナがボソッとこぼしてた愚痴を書き留めていたんです。私は王族です、いろんな所に配慮した環境づくりをするべきなんです。なので…」
リリアは頭を撫でられ驚き教師の方を見るとラルトは静かに泣いていた。
「ご、剛先生?なんで泣いていらっしゃるのですか」
「いえ…王女様が優しいからですよ。こんなに一生懸命に取り組んでくれる王族を私は見たことがありません…ぐすっ……」
ラルトは騎士団の環境が早く改善されてほしいと願っていた。ラルトの父は騎士団で過労死した。それから改善はされはしたが、それでも過労死しかける者は数えきれないほど居る。
自分の卒業生が王族の近衛になりその王族がこの学園に通うという知らせが来て以来、探りを入れていた。
その騎士科の卒業生には王族の友が居た。彼は成績は良かったが愛想を振りまきすぎて手がかかった生徒だったのをラルトは思い出し、今回はその王族の妹で卒業生の主で落ちこぼれと言われている。
心配だった。だが、実際は可憐で純粋で部下想いの優しい少女だったのだ。
今回の授業でも部下の言葉を書き留めるほど想っているのだ。
そんな少女を一体誰が落ちこぼれと言うのだろう、出来損ないと言うのだろう。ラルトは彼女は守るべき存在なのだと改めて認識した。
そのまま授業は順調に進み、無事授業が終わり、教室から出ようとするリリアの目にはある群がりが見えた。
(あれは…何でしょうか?確かあそこにはベンチしか無かったはずなんですけど)
リリアは恐る恐る群がりの輪に入るとそこにはベンチで本を顔の上にのせて寝ているニイナの姿があった。
普段は人が近づいただけで起きてしまうニイナがこんなに群がられて、沢山の黄色い悲鳴が聞こえる中で起きないのを見てそれほど疲れているのだろうと思ったリリアは寝かせようと思ったが、ニイナに伸ばされる手を見て、いてもたっても居られなくなりベンチの隣にしゃがむ。
他の誰かが手をゆっくりと伸ばす間、リリアはすぐに本をどかした。
すると、綺麗な顔立ちをしたニイナの無防備な寝顔が見える。
「かっこよすぎますわぁ!」
「とてもぐっすり眠っていらっしゃるわ。このままにしても…」
リリアは、ちょんちょんと人差し指でニイナの腕を突くとニイナはパチッと起きる。
「リリアお嬢様?すみません。寝ていました…」
「大丈夫。それほど疲れていたという証拠でしょう?」
「いえ、騎士にあるまじき行為です。寝ないように本を読んでいたんですが、睡魔に負けるとは…」
リリアはくすっと笑いニイナがベンチから立つと同時にリリアも立とうとすると目の前に手が差し出されその手をとる。
ニイナはリリアを立たせて、スカートについた草をそっと取る。
(リリアお嬢様に寝顔を見られてるとは。はぁ、恥ずかしい。リリアお嬢様の前ではかっこいい自分で居たいんだけどな…)
(ニイナの寝顔、めちゃくちゃ可愛かった…!!いや、かっこいいのもありますけど、普段とのギャップがぁぁぁ…)
かっこいい自分でありたいニイナは気を抜いたことを後悔していた。
好きな人の寝顔を見てしまったリリアは嬉しさ半分尊さに顔が緩みかけるが、ここが学園であることを意識していつもの自分に戻る。
周りの生徒はニイナの寝顔を見てからそわそわした様子で去っていく。
「ニイナ、もうすぐでお昼だけど。どこで食べるの?」
「あぁ、それなら。おすすめの所があるんですよね。私がここに通っていた時やんちゃして先生に怒られたくなくて隠れながら飯を食べていた時があるんですがそこが地味に良い環境でして」
「その場所は、他の人にはばれてないの?」
「私は今、初めてこのことを人に話したのでリリアお嬢様しか知りませんよ」
ニイナはリリアに優しくそう言い、微笑むとリリアは頬を赤らめ下を見ながら歩く。
(すぐそうやって、微笑むんですから…!その攻撃は私にとっては大ダメージですよぅ!)
(学園に来てからリリアお嬢様の顔が常に赤いような…?熱があるようには見えないし一体何なのだろうか)
鈍感なニイナに振り回されるリリアはこの気持ちをいつまで隠し通せるのか分からなくなり少し焦るのだった。
ニイナの後ろを歩き続けると緑の自然が見えニイナが止まったためリリアも止まる。
「こんな所あったんだ…⁉」
「私も最初はびっくりしましたよ…」
目の前には枯れた様子もない青々した草たち、風に揺れる木々、色とりどりの花たち。誰も知らないのがまるで嘘なように綺麗な景色だった。
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