第2話 学園
馬車に揺られながら外の景色を見るニイナとそのニイナを見つめるリリア。
「そのー…リリアお嬢様。いつまで見ている気ですか?そろそろ穴が開きますよ」
「なら穴が開くまで見ます」
目の前にいる主の嘘偽りの無い真剣な眼差しに少し照れくさくなるニイナは口を隠すように手を動かす。
ニイナは冷静になった少し後、リリアの方向をそっと見るとパチっと音が鳴るように目が合い、リリアは恥ずかしくなったのか驚いたのか少し赤くなり頬に手を当てながら俯く。
(なんで照れてるんだろう。ていうか本当にずっと見ていたんですね……)
ニイナは純粋無垢な主の行動に少しくすっと笑う。
(に、に、ニイナと目が合ってしまいました……!どうしましょう⁉しかも笑われました…はしたないと思ったんでしょうか。うぅぅぅぅ、何故だか同じ馬車にいるとニイナがもっとカッコよく見えます……)
初恋の相手と目が合うだけで照れてしまうリリアは、この出来事以来、馬車の中でずっと火照った顔を手で隠しながら揺られていた。
お互い馬車に揺られて数十分。馬車が止まると学園についていた。リリアが通うのは王立のマータ学園。
ここに通う学園の生徒は必ずと言っていいほど王家の紋章のついた馬車が止まると見に来る。
その目的は王女の姿みたさではなくその付き添いの近衛騎士、ニイナを見に来るためにわざわざ学園の門近くまで来るのだ。
「なんだ…今日はニイナ様いらっしゃらないのね」
「残念だわ」
「じゃっ。戻ろうぜ」
そんな声が響く学園は静かになる直前で、馬車の扉が開いた時。学園は黄色い悲鳴に包まれる。
その理由は当然の事、馬車からニイナが出てきたからだ。
「リリアお嬢様。お手を…」
「ニイナにこうやってエスコートされる日がまたくるなんて」
「ご不満ですか?」
「いいえ。とても嬉しいの!」
出した手を引っ張るようにとるリリアの飛びつきを抱き寄せるように支えるニイナの行いにまたもや黄色い悲鳴が響く。
リリアの後ろを歩くニイナは視線を買いすぎて少し帰ろうかと思ったが、自分の主の一緒に行けると言った時の喜び方を思い出して主を悲しませたくないという気持ちが強くなり、帰るという思考は消え去った。
「ニイナ様が学園内までいらっしゃったわ!」
「てことは、授業とかも見に来るのかしら」
「もっとおめかしすればよかったわ」
「俺、変な恰好してないよな?」
「授業とか教えてくれんのかな」
生徒の期待は高まる中、ニイナの眼中にはリリアという生徒以外は興味なんてなかった。
そんな中、こちらに歩いてくる一人の教師がニイナの目に入る。
「これはこれは!ニイナ様ではないですか!」
「あー、お久しぶりです」
目の前にいる四十代半ばほどの眼鏡をかけた男性は、ニイナがこの学園に通っていた時の教師だ。その名もラルト・フミルセ。
「ニイナ。
「その、私がこの学園の生徒だった時の教師なんです。ていうか、剛先生って…まだそのあだ名使ってるんですか」
「いやですね~。大事な生徒がつけてくれたあだ名はきちんと使わないと~」
くねくねした喋り方で嬉しそうに過去を語るラルトにリリアはきょとんとする。
「えーっと、ニイナはこの剛先生の生徒だったんですね」
「えぇ。それにリリアお嬢様が使ってる剛先生というあだ名も元は私がつけた名前でして…」
「えぇぇ⁉そうなんですか?でも、剛先生はやんちゃな生徒につけられたあだ名だって……」
ニイナはリリアの言葉を聞いて即座にラルトの方向を向くとラルトはニマニマしたような表情でニイナを見つめ返す。
ニイナはこいつ、確信犯だ。と言うように睨み返すがここで普段の殺気を出すわけにもいかずすぐ冷静になる。
「リリアお嬢様。この教師から即座に逃げてください、いいですね?」
「ふぇ⁉で、でも剛先生は私のクラスの担任なので…」
「は?」
ニイナは疑問を抱く。それはラルトは騎士科の教師だからだ。でも、リリアは政治科の生徒なため、ラルトが教師になるはずがないのだ。
この学園には騎士科、魔法科、政治科の三つに分けられる。寮も、棟も、クラスもすべて三つに分けられる。教師もその分野に分けて配属されるため騎士科と政治科の二つの掛け持ちはできない。
だが、ラルトは騎士科から政治科に転職していることからニイナはわざとラルトが変えたのだと分かった。理由は簡単、ニイナをからかうためだ。
「あなた…何してるんですか」
「変えちゃった☆」
パチン!とウィンクをする前教師のラルトにごみを見るような目で見つめるニイナにリリアは笑ってしまう。
「ふふっ。ふふふっ。とても仲がよろしいのですね」
「あれがとうございます。リリア王女」
「私にとってその言葉は誉め言葉じゃないです」
表情が真逆の二人をみてリリアはニイナの秘密を知ったようでうれしくなる。
(ニイナの弱みを握ってしまいました!)
政治科の授業が始まるチャイムがなるとリリアはルンルンでステップを踏みながら教室へと向かう。それと同時にラルトも久々の卒業生に会えてうれしいのか少しふわふわした様子でリリアの後を追うように教室に向かう。
「二人とも、はしたないですね。まったく、どこかで休んで授業が終わるのを待つとするか」
ニイナは近場のベンチに横たわり、隠し持っていた本を読むことにした。
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