第14話 ファットマンの復活


デパートは、テレビの画面で見た警察官でいっぱいだった。


ハメット先生の姿は見つからなかった。



やがて、何人かの警察官が、男の人をとりおさえていた。


盗ぞくがつかまったのかもしれない。


ぼくとランディはそばまで行ってみた。



とりおさえられていたのは、ハメット先生だった。



「先生、なにをしているんですか」



「見てのとおりだ。助けにいこうとしたんだが、止められた」



警察官のひとりが先生にどなった。



「やめてください、危険なんです。 あなたのお知りあいは、かならず助けだします」



ハメット先生は負けずに言い返した。



「もう二時間にもなるというじゃないか。 ほんとうに中の客は助かるのか?」



「助けだしますとも」



ぼくらと先生は、デパートからはなれた場所で、警察官と盗ぞくの戦いを見ていることになった。


戦いといっても、盗ぞくは二階からおりてこない。


お客さんを人質にとっているので、警察も、うかつに手を出せない。



「ちくしょう、アイダ先生はぼくが買い物をたのんだおかげで、こんなことになってしまったんだ」



ハメット先生はくやしそうに言った。


それであんなにあわてて電話を切ったんだ。



ぼくはハメット先生を見た。


気のどくなくらい、心配しているみたいだった。


ふと、ランディが、ハメット先生のシャツの胸ポケットを指さした。



ファットオーブが、かがやいていた。


最初はほんのりと明るかったが、オーブはしだいにまぶしく光ってきた。



先生はオーブのかがやきにまだ気づいていない。


 



やがて一台のバスがやってきて、デパートの正面に止まった。


警察官は建物からはなれていった。


ぼくらのそばにきた警察官をつかまえて、ハメット先生はたずねた。



「いったい、あのバスは何なんです」



警察官は答えた。



「盗ぞくがにげだすためのバスなんです。バスを用意すれば、お客さんを返してくれるそうなんです」



デパートから三人のお客さんが出てきた。



そのあとから、いかつい大男たちが十五人出てきた。


それが盗ぞくたちだった。


盗ぞくのうちのひとりが大きな声で言った。



「いいか、じゃまをするとこの三人の命はないぞ。 あとの客は返してやる」



ぼくらはぼうぜんとした。


三人の客のうちのひとりは、アイダ・クレストだったからだ。


 


三人の客と盗ぞくたちがバスに乗りこむと、盗ぞくのボスがバスのまどを開けて、通りの人々に言った。



「戦いは、まだはじまったばかりだ、しょくん。このマーキュロの町は、明日はおれたちの天下だ。おぼえていろ」



バスは走りだした。 まどからアイダ先生のつかれた顔を見えた。



ルイス・ハメットはバスを追いかけた。 大声でさけんだ。



「アイダ・クレストを返してくれ。ぼくが身がわりになる」



まどからアイダ先生が顔を出した。 泣いていた。



「ルイス、 来ちゃだめよ」



ぼくらもあとを追った。


だが、バスはどんどんスピードをあげた。


ぼくとランディはとうとう走るのをやめてしまった。


ハメット先生はまだ走りつづけていた。


でも、追いつけっこなかった。


 

その時だ。



ランディがさけんだ。



「おい、ハメット先生の体を見てみろ」



ぼくは目をこらした。先生の体が光りかがやいている。




その光は先生の体を丸くつつんでいた。



「ファットオーブが先生を助けようとしているんだ」



先生の姿は、やがて巨大なあのボールに変わった。


 


やった。ルイス・ハメットはファットマンに変身したんだ。


 


バスはどんどん遠ざかってゆく。



ボールはてんてんとはずみながら、バスのあとを追っていった。


そしてひときわ大きくはずむと、バスの屋根に飛びのった。


バスはたちまち車体の背なかから、へしゃげてしまった。



「おお、なんだあれは」



まわりの警察官がおどろいて言った。



「あれが伝説の勇者さ」



ランディはとくいそうに言った。



「マーキュロの伝説のことかい」



「そう、でもあれはマーキュロじゃないよ。ルイス・ハメットさ。 ぼくらの先生なんだ」



「でも、オーブで変身できるのは、それにふさわしい勇者でなければならないはずだ」



警察官はファットマンのかつやくを、こぶしをにぎりしめながら見守っていた。


ファットマンは、バスのドアに体当たりして、盗ぞくどもをひとり残らず外にほうりだした。



「早く、つかまえてよ。 早く」



警察官たちは、あわててバスに向かって走っていった。


バスはボールの体当たりをうけて、ぼろぼろになっていた。



「なぜなんだ。どうしてファットオーブを使えるやつがいるんだ」



盗ぞくのボスはにげまわりながら、さけんだ。


盗ぞくは、かけつけたおおぜいの警察官にとりおさえられた。


 


ファットマンは、盗ぞくがひとり残らずつかまると、しだいにかがやきをなくしていった。


光の輪が小さくなり、その中にルイス・ハメットが立っていた。


ぼくらは先生のそばへいった。


先生のまわりは、まるでしゃく熱の太陽のように熱かった。


それくらい強いエネルギーがオーブから出ていたのだ。



「先生、だいじょうぶかい」



ハメット先生は返事をしなかった。


なんだかぼんやりとしていた。


ぼくとランディは、先生にもう一度言った。



「ハメット先生、助かったよ。 アイダ先生が助かったんだ」



ハメット先生はこくりとうなずくと、アスファルトの路上にたおれてしまった。


アイダ・クレストが泣きながら、ぼくらのもとへやってきた。



「ああ、ルイス。 あなたはわたしを助けてくれたのね。 こんなにつかれてかわいそうに」



アイダ先生はハメット先生をだき起こした。



そしてあついくちづけをかわした。


 


                             つづく

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