第10話 どろぼうが街にふたたび

 


土曜日になると、ぼくらはふたたび病院へ行った。


今日は学校も休みだし、話をする時間はたっぷりあった。


ランディはとちゅうで買い物をしようといいだした。


「だって、入院していると、どうしてもおなかがすくっていっていたぜ」


「でもハメット先生は、あまり食べないんじゃないかな」


ぼくはランディに言った。でもけっきょく買っていくことにした。


予算は三百円。一人あたり百五十円の出費だ。


「三百円で何を買うんだよ、ランディ」


「おれはなぁ『いなりずし』がいいと思うんだ」


「おまえなぁ、自分の好きなもの言ってるんだろ?先生が『いらない』って言ったら、おまえが食うつもりなんだろ」


「じゃあ、フィルは何がいいんだよ?」


「…ぼくはなぁ、なんだ、その…ケーキとかさ。いや、ケーキは高いかな?『いなりずし』って三百円で買えたっけ?」


「とにかく早く店に行こうぜ、フィル」


それにしても「いなりずし」とは、まいったな。


 


スーパーマーケットの入口にきたとき、いつもとちがう感じがした。


にぎやかなはずなのに、しーんとしている。


お休みなのかなと思ったくらいだ。


ランディも不思議そうだった。


「レジのおばさんがたおれているぞ、フィル」


ランディがレジを指さして言った。


店の中をみると、たおれているのは、そのおばさんだけじゃなかった。


品物をならべている店の男の人も、買い物にきたお客さんも、みんなたおれていた。


みんな、うーんうーんとうなっていた。


ショッピングカーにもたれているおばあさんが、少しだけ動けるみたいだった。


ぼくらはおばあさんのところへ行ってみた。


「大変だわ、ぼうやたち。ここにどろぼうが入ったのよ。 警察へ連絡しなくちゃ」


おばあさんはマーケットの中の電話まで歩いていった。


そばにたおれていた男の人が、また「うーん」とうなった。


頭の後ろをおさえていた。


きっとどろぼうになぐられたんだ。


「ぼうやたちはにげなさい。 またやってくるかもしれないわ。 警察はすぐ来るから、私たちは心配ないわ」


さっきのおばあさんが言った。おばあさんも頭をおさえていた。


くそ、どうしてどろぼうばっかりあらわれるんだ。





ぼくらはスーパーを出て、大急ぎで病院へ行った。


 


今日の看護婦さんは別の人で、すんなり病室へ入れてくれた。


「ど、どうしたんだ、君たち」


ぼくたちはよほどあわてた様子だったのだろう。


ハメット先生はベッドの上でびっくりしていた。


「大変だよ、先生。 またどろぼうがやってきたんだ。今度はスーパーマーケットだよ」


ランディはあわてながら言った。


ハメット先生はランディをなだめながら、心配そうに言った。


「君たちはだいじょうぶだったのか」


「ぼくらはどろぼうがにげたあとに店に入ったんだ。みんなたおれていて、苦しんでいたよ。店のおばあさんが警察へ連絡したみたいだけど」


ちくしょう、とハメット先生は言った。


先生は毛布をひきはがしたかと思うと、ベッドから飛び起きた。


らんぼうにパジャマをぬぐと、すぐにシャツとズボンを着た。


なんだかとてもおこっている様子だった。


「ランディ、君はマーキュロの墓を知っているんだったね。 すぐに案内してくれないか」


ぼくとランディはおどろいて顔を見合わせた。


ぼくはあわてて言った。


「それはだめだよ、先生。先生は病気なんだ。いったいマーキュロの墓で何をするつもりなんだい?」


ハメット先生はぼくを見つめて、しずかに言った。


「行かせてくれ。これはとても大切なことなんだ、フィル」


ハメット先生とぼくとランディは、こっそりと病院をぬけだした。


先生のベッドには「買い物にでかけます」というメモがおいてある。



でもあんな紙きれをおいていったところで、あとで看護婦さんにこっぴどくしかられるのは、わかりきったことなのだ。


 


                             つづく

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