第9話 招かれざる面会者

 

ぼくとランディは学校ではたしかに落ちこぼれなのかもしれないけど、それでも友だちのことは好きだし、先生が病気だったら、やっぱり心配する。


けっして悪い子どもじゃないんだ。


病院へ行くと、もう午後の六時になっていた。 外はけっこう暗くなってきていた。


受けつけにはだれもいないし、看護婦さんだって、夜勤の看護婦さんしか残っていなかった。


ぼくらは病院のろうかで、看護婦さんに声をかけた。


看護婦さんは少しめいわくそうな顔をして


「ねぇ、こんな時間に子どもがおみまいだなんて、こまるわ。明日、もう一度きてくれないかしら」


と言った。


こんなときは、ランディよりぼくのほうがしつこい。


ぼくは両手合わせて、神様にいのるように、看護婦さんに言った。


「少し会えればいいんです。 ハメット先生はぼくらの担任の先生なんです。だから」


「だから?」


看護婦さんは聞きかえした。'


ぼくはなんと言えばいいのかわからなかった。


「だから、その、心配なんです。顔が見たいんです」


「顔が見れたら安心できるの?」


「あの、はい、そうです」.


看護婦さんは、ぼくらを病棟へ入れてくれた。


病室まで案内してもらって、やっとハメット先生の顔を見ることができた。



先生はベッドで口を開けたままねていた。


ベッドのそばへ行くと、先生は目をさました。


「フィルにランディだね。どうしてここへ」


先生は病衣に着替えていたせいか、とても痛々しく見えた。


両腕に大きなばんそうこうがはってあった。たぶん点滴のあとだと思う。


きっと何回も刺すのを失敗したにちがいない。


ぼくとランディは、ここへやってきた理由を、かわるがわる説明した。


アイダ先生がとても心配していたこと。


ぼくらはハメット先生が病気だということを、ウソだと思っていたこと。


先生のアパートがどろぼうにあらされていて、本当に心配になって病院へやってきたこと。





先生はぼくらが話し終わるまで、じっと話を聞いていた。


「ありがとう。 ぼくはもうだいじょうぶだ」


でもそれはウソだとすぐに思った。


だって、とてもつかれた顔をしていたから。


「そんなことより『マーキュロの墓』って聞いたことないかい?」


ハメット先生はやぶからぼうに、そんなことを聞いた。


ぼくは墓のことなど知らなかった。


ランディは知っているらしかった。


「一度パパに連れていってもらったことがあるよ」


先生は急に目を見開いて、ランディに聞いた。


「それはどの辺かな?」


「マーキュロ自然公園の山の中にあったよ」


ランディは言った。


「でも、どうしてそんなことを聞くんですか?」


ぼくはハメット先生にたずねた。


「『マーキュロの墓』に何があるんですか?」


先生は何も言わなかった。


何か考えごとをしてるみたいだった。


ぼくらが知っているルイス・ハメットは陽気でおとぼけものの先生だったのに、今日はいつもと感じがちがうような気がした。


なんだか、お気楽さが足りないような気がする。


どろぼうが入ったんだから、やっぱり落ちこんでいるのかな。


もう時間がおそいから、家に帰りなさい、と先生は言った。


「また来てくれよ。えんりょはいらないからさ」


「はい、また来ます」


ぼくらが病室を出ると、さっきの看護婦さんに会ったので、ていねいにおじきをした。


ランディがぼくに言った。


「今度はアイダ・クレストも誘ってみようか」


ぼくは少し考えて首を振った。


「容態が悪くなるから、やめとけ」


ぼくらは家へ帰ることにした。


 

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