第8話 ハメット先生の災難
今日もハメット先生は学校へ来なかった。
今日で三日目だ。
ぼくとランディは休み時間にとなりのクラスをのぞいてみた。
アイダ・クレストはしょんぼりしていた。
いつもなら爆撃のようなけたたましい声が聞こえてくるもんだが、今日のとなりのクラスはやけに静かだ。
恋はモンスターを乙女にする。
ぼくはランディに言った。
「なぁ、ランディ。 アイダ先生はいくつだっけ?」
ぼくがたずねると、ランディは首をかしげた。
「さぁ…24センチぐらいじゃないかな?」
「年齢だよ年齢。足のサイズじゃないよ」
「たぶん、ハメット先生とかわらないくらいじゃないかな。本当に心配している感じだな」
「ルイス・ハメットのことが好きなのかな」
ぼくがたずねると、ランディはしずかにうなずいた。
キューピッドとしてのランディの確信はゆるがないらしい。
ぼくはまたまた疑問を持った。
「ハメット先生はどう思ってるんだろ?」
ランディはプッとふきだして言った。
「こわい先輩だと思ってるんだろうな」
ぼくもランディの言うとおりだと思う。
「まさか怒られるのがこわくて、学校に来ないんじゃ」
ランディがポツリと言った。
ぼくたちは顔を見合わせた。
だとすれば、そこは大いに責任を感じなければならないところだ。
ぼくらは放課後、アイダ先生ぬきで「デビット・ハイツ」へ行くことにした。
アパートの前にはなぜか人だかりができていた。
いったい何があったんだろう。
駐車場にはパトカーも停まっていた。赤いパトランプがクルクル回っていた。
近くのマーキュロ交番のおまわりさんが、ハメット先生の部屋の前に立っていた。
「ぼうやたち、ここへ来てはいかん。 帰りなさい」
おまわりさんは、ぼくらをつかまえて言った。こわい声だった。
ぼくらは集まっていた大人たちのひとりにたずねた。
「なにがあったんですか?」
「どろぼうだよ。部屋の中がめちゃめちゃなんだ」
「ハメット先生は、どうしたんですか?」
「きみたちは先生の生徒なのかい?」
ぼくらは同時にうなずいた。
「あの若い先生なら、さっき救急車で病院に運ばれたよ。部屋をるすにしている間、病院へ行っていたらしい。それが部屋へ帰ってみると、このありさまだろ。部屋を空けている間に何者かが侵入したらしい。警察に届けて、おまわりさんと話をしているうちに、また熱が出てたおれちゃったんだよ。何も盗まれはしなかったみたいだけど…」
ぼくとランディは思わず顔を見合わせた。
…仮病じゃなかったんだ…。
ランディが男の人にたずねた。
「どこの病院ですか?」
「マーキュロ町立病院だよ。きみたちの先生は、気のどくなことになってしまったね」
男の人は気のどくそうに言った。
気のどくといえば、実に気のどくだ。
町立病院なら歩いて10分ぐらいのところにある。
注射が下手で有名な病院だ。
ぼくもカゼで注射してもらったことがある。
痛かったのなんの…。カゼはとっくに治ったのに、注射の痛みがそれから一週間も続いた。
注射器のどこをにぎって、どんなふうにさせば、あんなゴウモンみたいな痛い注射ができるのだろう。
ぼくらはあのいまわしき町立病院へ行くことにした。
それにしてもルイス・ハメットは、マーキュロにやってきてろくな目に会ってないな。
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