第4話 人間と接触
爆発の方角は覚えた。俺はそのまま神の塔の最上階から飛びおりようと思ったのだが、外に続く窓はどこにも無いようだった。俺は仕方なく登って来た階段を下りる事にする。階段の踊り場と踊り場に飛びながら、一気に駆けおりる事ですぐに外に出る事が出来た。
「モンスターが居ないからすぐに降りてこれたな。こんな高い塔なのに、ミノタウロス一匹いないなんてどう言う事だ?」
神の塔についての疑問はさておき、俺は爆発を確認した方角に向かって走り出すのだった。鞄を揺らしてしまうと、中に入った包丁やナイフやフォークが音をたててしまうので小脇に抱える。だが背負子の中の酒もカチャカチャなってしまうようだ。
「走り方を変えるか」
俺は近くにあった鉄の馬車の上に乗って、次の目標を定めて縮地で飛ぶ。そしてまた次の目標を定めて縮地で飛んだ。この移動方法ならば、先ほど爆発を確認した場所まで五分とかからないだろう。瓶を割る事も無いだろうし、音に気付かれて攻撃される事もあるまい。
俺が音もなく目的地まで進んでいくと、焼けた臭いと煙の臭いが風に乗って漂ってきた。この方向で間違いないようだった。
「さて」
恐らくこの塔の角を曲がれば、爆発した場所にたどり着くだろう。いきなり高位のモンスターに出くわさないように、壁からそっと先を覗いてみる。俺の視界に入って来たのは、更に巨大な鉄の馬車が燃えている風景だった。そしてその周りに死体が飛び散っており、破損した体を引きずっている者もいた。
「あの動き…、人間じゃないな」
よく見ると、どの体もおかしな動きをしており、焼けているのに熱がっていない。間違いなく死んだ体が燃えているゾンビの集団だ。
「おいおい、またゾンビかよ。あんなん、いくら退治しても全然レベル伸びねえぞ」
俺はふと、魔王ダンジョンが一番効率よくレベル上げ出来ると言ってたレインを思い出した。確かにこんな雑魚モンスターをいくらやったところで、俺のレベルは少しも上がらない。
「ま、いいか」
感知魔法、気配遮断。俺は自分に再び魔法をかけ、高位のモンスターに警戒しながら燃えている鉄の馬車に近づいて行く。鉄の馬車に近づいてみると、強い油の匂いがしてきた。恐らくは油に火をつけて、このゾンビたちを蹴散らしたのだろう。それでも周りにはウロウロと彷徨うゾンビたちがうろついていた。
その巨大な鉄の馬車は、ある塔の一階部分に頭を突っ込んでいた。よく見るとこの馬車は、道に置いてある小さい鉄の馬車を蹴散らして進んできたようだ。小さい鉄の馬車が、通り道のように左右に分かれて寄せられていた。
「誰かいるのか?」
俺はその燃える鉄の馬車の頭の部分を探る。すると脇に人が通れるような隙間を見つけたのだった。気配を断って、その建物の中に入ろうとすると抱えた鞄がつっかえた。俺はそれを縦にし直して隙間を通す。そっと中に入って行くと、奥の方に蠢く気配がするのだった。
なにかいるな…。
恐らく奥で動いている何かが居る。そしてよく聞くと話し声が聞こえるようだった。
人間のようだが、一体何を話しているんだ?
感覚上昇、聴覚強化。身体強化魔法をかける事により、話し声がはっきりと聞こえてくる。自分が幻惑魔法にかかっていない事はわかるので、魔人の催眠スキルの幻聴でもなさそうだ。
「@:*+2#)&!」
何を話しているのか全く分からない。話をしているのは数名で、男三人と女が二人だと言う事が分かった。言葉が分からないのは困る…、とにかく話が通じる相手ならいいのだが。
しかし…ここはなんだ? 腐った野菜や果物があるようだが…市場かなにかか?
俺は周りを気にしながらも、声のする方に気配を消して近づいて行くのだった。
するとそこには中年の男が二人若い男が一人、そして若い女が二人居た。そいつらはこの市場の物を鞄に詰め込んでいるようだ。人間ではあるが俺と敵対する相手かもしれない。言葉が全く分からない段階で、ここは他国の領土であるかもしれないと思った。
しかしこんな文明があるわけないか? もしかしたらあれらは神の類であろうか?
じっとそいつらの様子を確認していると、一人が何か金タライのようなものにぶつかって落としてしまう。
ガラン! ガン!ガラガラガラ!
「)&%#”@‘*!!!」
男が何かを叫んで口に手を当てている。どうやら静かにしろ! と言っているようだ。
なんだ? 恐ろしいモンスターでもいるのか? 俺の感知魔法には何も引っかかってこないが…ゴーストの類か?
しかしモンスターが出てくる事は無いようだった。俺がそのまま監視を続けていると、どうやら一人は熱病にでもかかっているようにふらふらして来た。あとの四人はそれに気が付いていないようだった。
ドサッ! とその男が倒れると、ようやく周りに居た女が気づいたようだ。
「=|\%$#&”!!」
女が青い顔をして近くに居た男を呼んだ。すると他の男女もやって来て、その倒れた男を遠巻きに眺めている。
なんでアイツらは助けないんだろう? あれは…
俺がそう思っていると、一人の男がつるはしを持ってきた。
何をするつもりだ?
するとその男が倒れている男に何かを叫んだ。すると倒れた男は両手をあげて無抵抗であることを示す。しかしつるはしを持つ男がそれを無視し、その男に袖をあげるように言った。倒れた男が言われたとおり腕をまくり上げると、そこには噛み跡があったのだ。
なんてこった。アイツはゾンビかグールに噛まれているようだ。ここにエリスかエルヴィンが居れば、聖魔法で浄化して助けられるが…俺は他人に聖魔法を使う事が出来ない。
するとつるはしを持った男は、そのつるはしを振りかぶって倒れた男の前にたった。
「(%&$$$=!!!」
倒れた男は、恐らく…待て!と言っている。その事でつるはしを持っている男が、躊躇したように後ろに下がった。だがもう一人の年配の男が、バっとつるはしを奪い倒れた男に振り下ろした。倒れた男はなんとか抵抗しようとしたようだが、つるはしが肩に突き刺さりうずくまる。年配の男は自分が仲間を殺しかけている事に動揺したのか、つるはしを落としてしまった。
だが。もう手遅れだろう…。申し訳ないが、エリスやエルヴィンと違って、俺は自分にしか浄化をかける事は出来ない。ただそれを見守るしかないと思っていたが、なんと四人の男女はその男を置き去りにその場を立ち去るのだった。
トドメを刺さねば、ゾンビになるぞ…
しばらく様子を伺おうと思っていたが、倒れた男は徐に立ち上がって彷徨い歩き始めるのだった。既にゾンビになってしまったらしい。俺は仕方なく、自分が持っていた肉切のナイフを鞄から取り出して、そのゾンビの頭に飛ばした。トスッ! と軽い音を立てて、ゾンビに変わり果てた男が倒れる。
俺がその男に近づこうとした時だった。さっき去っていったはずの女が一人戻って来た。そしてナイフを頭に突き立てられた元仲間の姿を見て悲鳴を上げるのだった。その声に反応して、他の男女がまた慌てて戻って来る。
「)%$=&#%~!」
男女は騒いで周りをきょろきょろと見始める。トドメを刺しておいて知らんぷりも出来ないので、俺は気配遮断を解き、両手を上げて近づいて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます