第3話 物資調達
久しぶりにふかふかの寝床で寝た俺は、神の酒を勝手に飲んだにも関わらず、快調に目覚める事が出来た。やはりあれはただの高級な酒なのだろう、棚を見るとまだたくさん並んでいる。ソファから身を起こし、明かりが差してきたガラス窓の外を見るために歩いて行く。薄明るくなってきた外は、昨日と変わらず建造物が何処までも続いているだけで、何かめぼしい物を見つける事は出来なかった。
ここは一体なんだ? 前世で行った事がある神託の塔よりもずっと高く、岩とは違う材質の壁に巨大なガラスが嵌め込まれている。それよりもだ…最上階に来たにも関わらず、武器や防具の類が一切無かった。実際俺は下心を抱きつつ登って来たのだが、最上階にあったのは神器などではなく高級そうな酒ばかりだ。
「隠し庫とかがあるのかもしれんな」
俺はひとまず、酒の置いてあった部屋を探ってみることにする。よく見ると調理台のような物があり、そこの下扉に数本の包丁が差し込んであった。武器というには心もとないが、これで少しは楽に戦えるようになるだろう。
後は…
「これはなんだ? 宝箱か?」
鉄で出来た巨大な箱が置いてあり、その表面に両開きの扉がついている。こういう扉は何らかの敵を倒さないと大抵開かない。恐らくは宝箱の一種だと思うが…鍵が無い形状のもののようだ。最上階までに試練のようなものはなかったが、武器か神器の一種が入っているのかもしれない。だがこの最上階には既に神の試練もモンスターも居なかった。と言う事は、恐らく既に抜き取られてしまった後だと想像される。恐らくこの塔は既に攻略済みだと考えるのが妥当だろう。
俺はダメもとでその扉に手をかけて、手前に引いてみた…。
開いた…。
「えっ?」
あまりにも簡単に開いてしまったので、少し拍子抜けしてしまう。とにかく中を覗いてみると、何かが腐ったような匂いがしてくる。一瞬トラップの類かと思ったが、中を見れば純粋に腐った食材が並んでいた。
「これは貯蔵庫か? しかし…」
食材は既に腐っているものばかりで、食べられそうなものは無い。そしてその鉄の貯蔵庫の更に隣りの奥に、鉄とガラスで作られたような貯蔵庫があった。中が見えるのだが、同じような形状の筒が何本も並んで入れられているようだ。
「これは武器…じゃないよな…」
そのガラスの貯蔵庫から筒のような物を取り出してみると、その中に透明な液体が入っているのが見える。何処からどう見ても水のように見えるが、このような得体の知れない鉄の箱に入っている物だ。十分に注意して取り扱う必要があるだろう。
俺は息を止めて、その筒の蓋のような部分に手をかける。グイっと引き抜くと、先についていた蓋が取れた。蓋にしては随分軽いので、きっと古くなって脆くなってしまっていたのだろう。
「念のため…」
自己蘇生レベル2、毒感知レベル2、毒耐性レベル2、毒分解レベル3。
自分の体に防御魔法をかけて準備をし、その引き抜いた蓋の所に鼻を近づけて臭いを嗅いでみた。それは無臭で何の匂いもしないようだ。左の手のひらに少しだけ垂らしてその液体を舐めてみることにする。何かあったらすぐに吐き出せばいいだろう。
これは…水か? こんな大袈裟なものに入っているのが水な訳ないか?
俺はそれに口をつけて一口飲んでみた。
間違いない…これは水だ。不思議な容器に入れて保存しているらしい。こんなに透き通った水が保存できるとは、やはりこの世界の文明は前の世界とは違う。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すが、身体にかけた防御魔法はいずれも反応しなかった。神の罠も毒性も無い、只の水が保存してあったのだ。これは…神の水かもしれんな。
「ふうっ」
水を飲んだことで、俺の体はかなり蘇生して来た。これはレベル七十位から俺に備わった能力の一つで、水を飲んで休むだけでかなりの力が回復するのだった。そこにあと何本も同じものが入っていたので、俺はそれを抜き取って背負子に入れた。
「これはなんだ?」
同じ場所に並んでいた鉄の筒だが、それには何やら読めない文字が書いてあるようだった。その鉄の筒を手に取ってみると、中に何らかの液体が入っていることが分かる。形状を見てみると、円柱の平らになっている部分に切れ込みが入っているようだ。
「ここから開けるのか?」
俺は訳も分からずそこを人差し指でついてみる。
プシュッ!
「おわ!」
俺が指でつついたところから、いきなり液体のような物が噴き出して来た。思わず俺はそれを放り出して身構えてしまう。
モンスター!?
床に転がっているその鉄の筒から、トクトクと液体がこぼれ落ちていた。俺が指でつついてみるも、それは生物などではないようだった。とりあえずそれを拾い上げて、出てきた液体に鼻をつけて匂いを嗅いでみる。するとシュワシュワと音を立てて、その液体は何かを飛び散らせているようだ。
「毒探知には引っかからないようだが…」
俺は恐る恐る、その液体を口に入れてみる。
「おお!」
なんと言う事だろう。それは口に入れたとたん、シュワシュワと音を立てた。思わずそれをプッっと吐き出す。
「水のようだが、なぜこんな刺激があるんだ? そしてなんでこんな鉄の筒に入っているんだ?」
その形状や重さを確かめるように見ているが、もしかしたら何らかの効能があるかもしれないと思った俺は、開いていない他の筒を背負子に放り込んだ。
そして再び腐った食材が入っていた鉄の箱を覗き込む。
「食い物は腐っているが…。これはなんだ?」
何か魚のような絵が描かれた鉄の筒がある。ここまでの流れからすると、これは罠などではないだろう。とりあえず何かの役に立つかもしれないので、その魚の絵が描かれた鉄の筒も背負子に放り込んだ。
さっき見つけた包丁は全て手持ちの鞄に入れて、他に何かないかを探してみる。すると立派な皿やスプーンフォークなどが置いてある。どの食器も真っ白で、名工の作った陶芸であることが分かった。
「ナイフは使えるか…」
ナイフも全て手持ちの鞄に放り込む。そして調理台の上に目を遣ると、そこにはまた大小さまざまの小瓶が並んでいた。
「これは…」
包丁や皿、ナイフやフォーク…そして調味料と思しき小瓶。
「ここは食堂だ…。物凄い美しい作りの食堂で間違いない」
しかし…、なんでこのような神の塔のような最上階に、食堂があるのかが理解できないかった。とりあえず小瓶を取って、逆さまにして振ってみると白い粉が出て来た。どう見ても塩だ。こんな貴重な物が置いてあるとは、やはりこの食堂はかなり高貴な者が来る場所なのだろう。
その後も散々探し回った結果、武器らしきものはどこにもなく調味料が入った瓶や袋などがあるだけだった。そして俺は、事もあろうに胡椒を大量に発見してしまったのだ。金より高価な胡椒が大量にある所を見ると、もしかしたらここは王族の建物なのかもしれなかった。
「こんなところか…」
俺が手に入れたのは包丁とナイフやフォーク、そして見た事のない鉄の筒と水の入った透明な瓶だった。この瓶は驚くほど軽く、水を飲み干すとほとんど重さを感じなくなった。恐らく高価な容器であろうからそれも背負子に入れ直した。
あとは、何らかの交渉に仕えるかもしれないと思い、胡椒の入った袋を背負子に放り込む。
「結局神も降りて来ず、王族も来ることは無かったな…。来たのはゴミクズ同然のゾンビだけ…。一体この塔はなんなんだろう? 謎だな…」
そして俺が再び壁のガラスに歩み寄り外を見たその時だった。俺の視界の片隅に動きがあった。唐突に何かが爆発して黒煙を上げているようだ。昨日もあちこちで煙が上がっていたが、爆発しているのは初めて見る。
「ドラゴンか…、はたまた高位のリッチでも出たか…」
このままここに居ても状況が分からない為、俺は塔から出て爆発が起きた方角へ移動してみることに決めた。
っと、その前に。
俺は酒が並んでいる棚に行って、封の開いていない酒瓶を詰められるだけ背負子に詰め込むのだった。
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