門番
「クッ! マズイぞ!
勇者は焦燥した!
「どうしてコイツが此処に……いえ、こんな時に現れるのよ!」
「クソゥ……ゴォォォレェェェムッ!」
三メートル弱の巨体を誇る石体怪物〈ゴーレム〉を前にして、駄勇者達は戦慄を覚えていた!
モゾモゾと股間を押さえた内股で……。
「目的の……目的の部屋は、ヤツの背後に在るというのに!」
脂汗ながらに魔法使いが見据える先には、迷宮冒険者用のトイレが!
考えてもみたら水食料を買い揃えて挑むダンジョンが日帰り仕様なはずもない。
かといって垂れ流しでは、いろいろと問題があった。
まず、パーティーには男女混合も多い。これは実に気まずいし、倫理的にも問題だ。
次第にフラストレーションは結束し、全国モンスター組合による正式抗議が冒険者
「クッ! トイレは……トイレだけは非戦闘区域じゃなかったの? 侵し難い
「そうだぜ! トイレだけは中立区域! カム●ン・ブルースなサ●ド6だったはずだ!」
「これってば協定違反じゃない!」
「そうだ! 汚ねぇぞ! モンスター組合!」
「
脂汗を
「何ですって?」「暴走だと?」
緊迫した反応を返す勇者と
いま
「考えてもみろ! トイレを貸し出さねばダンジョンは垂れ流し環境へと逆戻りだ! そこにはモンスター側の
「そ……そうか! その通りだわ!」
「そうと解れば話は早ぇ! 背後で操っている黒幕がいねぇっていうなら、遠慮しないで全力攻撃だ!」
「ま……待て! 早まるな! 勇者!」
「完膚無きまでに瓦礫に変えてやるらへほぁへへん……」
背中の大剣を気合い任せに引き抜いた
「へ……へへッ……ス……スマねぇ……どうやらオレはここまでのようだ……」
「逝ったの? 逝っちゃったの?」
「さ……三割
「……微妙な残尿感だわね」
「だから、待てと言ったのだ。急に
「へッ……ア……アバヨ……ダチ公……(ガクリ)」
「「勇者ーーーーッ!」」
夜空に星がひとつ増えた。
「勇者、オマエの死は無駄にしないぞ」
「ってか、まだ逝ってないわよ……死に体だけど」
「勇者が身を
「……イヤなダイイングメッセージね」
「ならば、距離を置いて攻撃出来るオレの出番だ!」
起死回生とばかりに呪文を繰り出す魔法使い!
「喰らえ! ファイヤふぁんボほぉぉうール!」
敵へと
しかし、何も起きなかった!
「む?」
不思議そうに
「喰らえ! ファイやあはぁんボふぉぉぉルあふン!」
しかし、何も起きなかった!
「何故だ? まさか魔術結界が?」
「あ~……ってかさ? ちゃんと発声出来てないんですけど?」
「……え?」
「発声」
「発声? 呪文の?」
「うん」
「出来てなかった?」
「うん」
「…………」
「………………」
「だって、オレの我慢も限界だものぉぉぉ!」
「この役立たず!」
魔法使い
「ったく、使えないわね! この駄勇者共!」
「「オ……オマエもな……」」
「仕方ないわ……ホントはイヤなんだけど……」
妖艶な恥じらいに
そして、腹に
「オ……オマエッ?」「そ……それはッ?」
仲間の驚愕に
「盗賊
「いや──」「それよりも──」「「──何故、ブラを?」」
「いや~ん ♡ エッチィ~ ♡ 」
「嬉かねーよ」「
──ズゴシッ!
二体の
「まあ、新しい星座がふたつも……」
「「か……勝手に殺すな……」」
「さて……と」
淡白に気持ちを切り換える。
どうやら決心を実行へと移す時が来たようだ。
「アンタ達とバカやってた毎日、悪くなかった……楽しかったわよ」
辞世を含んだ
「オマエ?」「まさか?」
そして、
「オイ! やめろ!」「早まるな!」
「もう、これしか手は無いのよ!」
「「
自爆狙いで駆け出す!
威圧に
「って、オイーーッ?」「何処へ行くーーッ?」
あれよあれよと迷宮の闇へと呑まれ去る!
「ヒロインが
──遠くで大爆発が聞こえた!
「「シィィィイイーーーーフッ!」」
駄勇者の巨星、墜つ……。
「バ……バカ野郎が! 早まりやがって!」
「オマエは
彼等の慟哭が、どういう意味合いか──それは作者にも解りかねる。
「グウ……勇者……分かってるな?」
「あ……ああ、アイツの犠牲は無駄にしねぇ!」
無様に這いつくばりながらもガシリと
それは結束の証!
「「これでトイレ待ちの人数が減った!」」
最低だ、コイツら。
「あ……後は……アイツを!」
「ああ……あのゴーレムを!」
ヨロヨロと
「「何が何でも倒してトイレを奪還するッ! 例え漏らしてでも!」」
……目的、見失っとる。
極限状態って怖ッ!
「「トイレは
鬼気迫る執念が難攻不落の巨体へと駆け挑む!
その気迫を敵意と認識したか、ゴーレムの目が鈍く光った!
振り上げられる巨腕!
──ズォン!
石の剛拳が渾身に地面を殴りつけた!
迷宮そのものを粉砕するかのような大振動が刻まれる!
「「はふんッ!」」
ビクリと
そして二人は
駄勇者は逝きました…………。
「ふぅ、御苦労様。終わったよ」
トイレから出て来たゴブリンおばさんが、見張り番に
ゴブリン語を読めなかったのが、この悲劇の原因であった。
ゴーレムの額には書いてあったのだ──「清掃中」と。
手にした清掃用具をゴーレムに預けたゴブリンおばさんは、その大きな肩に乗って迷宮の奥へと去って行く。
微かな刺激臭を漂わす
[おしまい]
だ!勇者 凰太郎 @OUTAROU
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