第12話 融体

龍葦牙りゅうのあしかび!」


 柳義は青く光る刀身を下から上へと振り上げる。

 穂先が鋭い大量の葦を伴った斬撃が檮杌に襲いかかった。

 檮杌はその攻撃を軽々といなし、反撃と言わんばかりに凄まじい咆哮をあげる。

 すると、足元が大きく揺らぎ、柳義を取り囲むようにして地面が隆起する。


「なっ!」


 まるで意志を持った生物のようにうごめく地の波が、柳義に覆い被さらんとする。


「ッ……!」


 縦横無尽に薙刀を振り捌き、数多の斬撃で地の波を抉り切る。

 視界が開けると、一旦後方に退いて体勢を整えた。


「流石は四神ニ認めラレただけノこトはアル」

「……異形の分際で偉そうな口を叩くな。今すぐその醜悪な体躯を塵にしてやる」

「おーおー、随分苦労してそうだな。四天王最強のアタシが助太刀してやろうか?」


 要梅が窮奇の牙による攻撃を受け止めながら、余裕そうな声をかける。


「いつからお前が四天王最強になった? 仮にそうだとしても、お前の助けは死んでも受けない」


 そこで、窮奇が要梅から離れて数多の風刃を差し向ける。

 尾から放たれた黒風の斬撃は、大中小と大きさや形が様々だった。

 刀で打ち払いながらも、量が多くて捌ききれず頬や二の腕に裂傷が走る。


「クソッ!」


 途中からかわすことに専念し、攻撃が止んだところで体勢を整えるべく後退した。要梅は頬から流れ出る血を粗雑に拭う。


「四天王最強にしては、そちらも随分苦労されてるようだな」

「うるせえ! こんな掠り傷屁でもねえわ」


 柳義は後方で抗戦している桐玻と槐斗を一瞥した。

 要梅と同じく軽傷を負っていたり、衣服が破けたりしていて明らかに苦戦しているのが見て取れる。


 ――遠距離特化型の桐玻と槐斗にとって、近接戦闘は圧倒的に不利……。一対一でこのまま戦いが長引けば、いずれ競り負ける可能性がある。


 柳義が戦況を分析していると、檮杌がやじりのように鋭利なつぶてを差し向ける。

 それを回避して反撃の霊術を行使するも、雄壮な二本牙で全て弾かれてしまった。


「ちっ!」


 ――結界の再構築に関係なく、奴らが大鬼門から顕界に出てしまった以上討伐しなければならない。


 今度は青龍が檮杌を迎え撃つ。

 青龍が抑えてくれている間、柳義は歯噛みしながら思案した。


 ――体力が持つかどうかは五分五分だが、早く片を付けるにはこれしか方法が無い……!


 覚悟を決めて、柳義は妹弟たちに叫ぶ。


「要梅! 桐玻! 槐斗! 〈融体ゆうたい〉を使え‼」


 長兄の声が届いて、三人は瞠目する。


「融体⁉」


 桐玻の鸚鵡返しに、柳義は声を張り続ける。


「このままじゃこっちの体力と霊力ばかりが消耗していずれ競り負ける。だから、一気に奴らを片付けるぞ!」

「もしそれで倒せなかったらどうするの⁉」

「結界の再構築に限らず、どっちにしろ四凶は俺たちが仕留めなきゃいけないんだ。四天王の名に懸けて、ここは意地でも奴らの暴乱を食い止める‼」


 珍しく焦燥を露にしつつも、四天王としての覚悟と強い意志を見せる柳義に、槐斗は呆然とする。

 そんな兄の必死な訴えを垣間見て、要梅はあからさまに嘆息する。


「ハァ……。しゃあねえな。今回ばかりはテメエの命令に従ってやる。丁度アタシも融体しようかと思ってたとこだしな」


 柳義は口角をあげる。桐玻と槐斗の方にも目をやる。彼女たちも同意するように頷いた。


「青龍!」

「朱雀!」

「白虎!」

「玄武!」


 四兄妹の呼声に、霊獣たちが主人の元へ駆け寄る。そのまま主に溶け込むように憑依した。

 すると、四兄妹の全身からそれぞれを象徴する色の霊力が溢れ出す。


 髪印から広がっていくように、全体の髪色が変わった。柳義は青、桐玻は赤、要梅は白、槐斗は紫に変色し、瞳も同じ色に光り輝く。

 四凶は彼らの融体を目の当たりにし、各々驚愕していた。


「今ノ人間モまさカ融体出来ルなんテな!」

「まるデ、千年前と同ジ光景ジャな。あの時ハ奴ラの強サが尋常では無ク、命カラ

ガラ鬼界に逃げテしまっタが……」

「…………」

「ハッハッ、面白イ! 今日こソ我ラの因縁にケリを付ケよウぞ‼」


 檮杌が高揚したように言ったのを皮切りに、四凶はそれぞれ四兄妹に牙を剥く。霊獣と一体化した四兄妹も迎撃するため、勢いよく地を蹴った。

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