第14話 初ライブ

「ひみこいい?」

「あら、剣士どうしたの?」

めずらしく剣士が私の部屋に現れた。この頃剣士は部屋に入る時ちゃんと私に声をかけるようになった。

「これ、ついに初ライブ。コンサートやるんだ。ひみこポスター作ってよ」

「へエー早いね。結成からいくらも経っていないのに、もうコンサート出来るの?」

剣士の嬉しそうな顔に水を差すようだけどつい心配になって聞いてしまった。

「今回はささやかにね。ミニコンサートだ。学校の講義室を借りて、あんまりたくさん入れないけど少人数で中身の濃いのをやろうと思ってる。D組の敏広が文芸部に頼めばポスター作ってくれるっていうから」

そっか剣士のやりたいことはなんと言ってもこれだもんな。

「OK!まかして良いの作るから」

ついに剣士もコンサートか~夢への第一歩って感じだな。手伝えることがあるなんて嬉しい。剣士のことなのに私までわくわくした。ハードにバイトしながらちゃんと練習もしてたんだなあ~忙しくて食事の時間まで別々。初めはお互い避けてることに神経使っていたけれど今では忙しいのが当たり前になって、一緒の家にいるとは思えないほどのすれ違いだった。

 でも……学校で見かける剣士は元気が良くて、私も張り切っててこの頃嬉しい毎日の連続だった。

 失恋の甘酸っぱい経験と、それを乗り越えてクラブにかける情熱と、今まで眠ったままでいた色んな力が沸き上がってきて私は益々充実していた。

 ポスターの絵やイラストを引き受けてくれるD組の滝本君とも知り合いになって、打ち合わせや細かいチェックなどもつき合ってもらい凄く勇気づけられた。美術部二年の沢木先輩も私のことを待っていてくれて、部室をのぞくと楽しそうに寄ってきてくれた。

「今度は何?」

「軽音部のコンサートのポスターなんです。引き受けてもらえますか?」

私も慣れて、最近依頼するのもリラックスムードになってきた。

「軽音部のコンサート?わあ楽しみだね」

 先輩はもう構図や配色のことも考えているんだろうか、目を輝かせて剣士が走り書きしたメモを受け取った。

「すごーく性能のいいカラーコピー機が入ってね。先生が少しなら使ってもいいって言ってくれたの。強い見方でしょ。この間のシルクスクリーンも良かったけど、いろんな表現のしかたを試すことができて楽しみよね~、ポスター見つけて声かけてくれる人もいてね。美術部っていうと今まで籠もって絵を描いてるイメージしかないでしょ。こうやって発表の場があると何してるかわかりやすくていいよね。クラブの宣伝にもなるし。滝本君のファンもたくさんいるのよ。ポスター下さいって来るの。気分最高~滝本君も喜んでたわ。自分の作ったもの欲しがる人がいるなんて嬉しいよね」

 そう言って気軽に先輩は引き受けてくれる。幸乃先輩も言ってたけどみんな創作おばけの自己満足じゃないんだって伝わってくる。そう言う瞬間が私はすごく好きだった。もっといっぱい先輩から刺激を受けたいっていつも思った。

 剣士の初めてのコンサート実現に私も力が入っていた。


「剣士なにしてる?」

 珍しく家にいた剣士を捕まえてポスターの要望など聞きに屋根裏に上がった。

「あ!ちょっと待って」

私が顔をのぞかせると慌てて部屋を片づけ始めた。はさみや紙をいっぱい広げて剣士、歌だけじゃなく工作も得意なんだろうか?

「この部屋も広いと思っていたけど荷物を入れるとそんなに広くもないね」

「楽器も増えたしあちこちポスター張ってるからお前にはむさ苦しいかもな」

 本当に壁中ポスターだらけ。

「これ誰?」

「それは俺の尊敬するエデン。ベースギターの河島っていう奴がいいんだよな」

 いやあ驚いちゃうような衣装だな。化粧もけばいし剣士もこんなふうになるのかなあとつい眉間にしわをよせて見入ってしまった。

「どうした?」

「いやあ綺麗な髪の毛、それにこのお化粧。剣士もこうなるの?」

「だめだめ、それは苦手だな。まあ髪くらいは染めるけどカラフルはダメ」

「あ、つい見とれてポスターのことで取材に来たの。書いて欲しいこととかある?」

「あるにはあるけど、あんまり説明っぽくてもな、今回のコンサートはとにかく初めてだから五人の顔の特徴とかわかるようにして欲しいな。まあ見に来たくなるようなポスターをたのんます。来てくれた後は精一杯やるからさ」

「わかった」

「ひみこ……コンサートの日、打ち上げやるからここにこいよな」

「ここ?」

「ああ、招待するから絶対開けとけよな」

「うん、わかった」

 打ち上げ、そうか打ち上げね。手料理母さんに頼むか〜でも、その前にポスターポスター。良いの作って盛り上げないと……コンサートの日はと改めて見ると…

「えー!七月七日、私と剣士の誕生日じゃない」

 誕生日に初コンサートか……二人一緒にお祝いするって母さん張り切ってたからがっかりするかも。だけど仕方ないか…ちゃんと言っておこう。剣士と私の十六歳の誕生日……いきなり忙しくなりそう。

「あ!そう言えばいったいどんな曲やるんだろう?」

 私はせっかく剣士のところまで取材に行っていながら肝心なこと取材するの忘れたなあと思っていた。

 また聞きに行くか……同じ家の中なんだからいつでも聞けるよ…

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