プロローグ ~虹の丘

 ”虹の丘”


 黒馬亭のすぐ傍にあるその丘は長らく鍵で封じられていた。

 入り口の石の壁は、12年間も堅く閉ざされ、虹の丘の秘密を守り続けてきたのだ。

 しかし、迦楼羅かるらとグウィンの双子が16歳の誕生日を迎えた日、彼らの母、コーネリアス(ココ)はその鍵を開ける決心をした。


 虹の丘に集まったのは、ココと天喜あまき、そして双子の迦楼羅とグウィン。

 フレアおばあさんが用意してくれたのは、サンドイッチ、チキン、紅茶、そして外海から輸入されたハイラスの実。はしゃぎながら、それらをピクニックシートに並べる双子に、ココは顔をほころばせた。


「迦楼羅にグウィン、誕生日おめでとう!きちんとしたパーティーは、夜に黒馬亭で開くけれど、そこにはラピス親子やスカーも来るわよ。それに父さんもね!」


「えっ、父さんが来るの?」


 迦楼羅とグウィンは驚きと喜びが混ざり合った顔をした。

 心臓が高鳴る。彼らの島の平和は、父の力によって保たれている。その存在感は圧倒的だ。いやが上にも畏敬の念を抱かずにはいられない。


 そんな双子たちの胸の鼓動とは逆に、虹の丘には柔らかな春風が吹いていた。一面のスミレの花が日の光を受けて、瑞々しい紫の光を放っている。


「綺麗ね。この丘のスミレは、まるで紫の宝石みたい。門が閉じられていたから、いつもは遠くから眺めているだけだったけど」


 天喜の言葉に一同はうなづき、美しいスミレの花々にしばらく見とれていた。しかし、丘の中央には、地面が不自然にむき出しになっている場所があった。


「なぜ、ここだけスミレが咲いていないんだろう?」


 先ほどから、グウィンがその場所をしきりに気にしているのを見て、ココは目を細めた。そこには、兄のゴットフリーが未来へ託した、強い想いが隠されているのだから。


「さぁて、今日は『レインボーヘブンの伝説』の続きを話すんだったわね。何から話そうかしら」


 すると迦楼羅が、身を乗り出しながら言った。

 「せっかく、母さんが話すんだから、母さんしか知らないことを話してよ!」


「そうね、ならば……」とココはいたずらっぽい声を出して、


「母さんと父さんが、最初に出会った時の話なんてどう?」


 「えっ」と迦楼羅とグウィンは目を輝かせた。隣にいた天喜までがあら?と、驚いた顔をした。


「でも、その前に、少しだけゴットフリーが女神アイアリスに捕らえられ、いなくなった後の話をしてからね」


 そう言うと、ココは双子に優しく微笑みかけ、それから、レインボーヘブンの伝説の続きを話し始めた。

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