幕間~ グウィンのメモ
黒馬亭の二階にある客間。
黒馬亭は宿屋だが、街はずれにあるせいか、泊まり客はほとんど来ない。だから、ここは、両親が家にいないことが多い
勉強を終えたら、”レインボーヘブンの伝説”の続きを話してやると約束したスカーだったが、双子は予想をはるかに上回るスピードで課題をやり終えてしまった。
グウィンは成績優秀なので分からないでもないが、いつも勉強嫌いの迦楼羅も、教えてやると理解が早い。元々は頭がいいのだろう。やる気になれば出来るってやつか。
約束どおり、スカーはレインボーヘブンの伝説の続きを双子に聞かせてやった。
「お~っ、ついにクーデターに突入ね! でも、爆弾を抱えて王宮に乗り込もうなんて、スカーって、意外と武闘派!」
身を乗り出して声をあげる
「武闘派って、なんだよ。せめて革命の寵児とか……もっと違う言い方をしろ。お前らは俺のことを頭でっかちな政治屋だとでも思ってたのか」
「だってさ、スカーはいつも会議ばっかりしてるじゃん。走り回るなんて、想像できないよ」
迦楼羅は無邪気に言った。スカーは鼻を鳴らしたが、目の前に座っている双子に言った。
「今の俺たちは、走り回る必要がないんだ。会議で物事を決めることができるんだから。それは、この島が平和だからだ。お前たちも、それをありがたく思え。この平和は、簡単に手に入ったものじゃないんだぞ」
そう言ってから、スカーは先ほどから熱心にメモを取っているグウィンの方に目を向けた。
「それはそうと、グウィンはいったい、さっきから何を書いてるんだ?」
「スカーから聞いたクーデターの計画をまとめてみたんだ。こうやって細かく整理しないと、話を聞いていても、全体像が見えてこないからね」
グウィンは、そう言ってからペンを置いた。
スカーは、興味深そうにそのメモを覗き込む。グウィンのメモには、スカーのクーデターの目的や手段、仲間や敵、リスクやチャンスなどが、簡潔にまとめられていた。
「へえ、面白いことをしてるな」
この少年は口数は少ないが、物事を鋭く分析する才能に恵まれている。それは、彼の叔父であるゴットフリーの血筋なのだろうかと、スカーは思った。
スカーの言葉を聞いて、迦楼羅がグウィンのメモを覗き込んできた。それはおおよそ、次のようなことが書かれていた。
― ・ ― ・ ―
クーデター計画
日時:グランパス王国建国記念祭
場所:グランパス城
目的:王を捕らえて国を制圧する。*最優先事項:闇の戦士の出現に備えて、国民を一ヶ所に集めて安全を確保する。
味方: クーデター軍(隊長:ラガー、補助:タルク、助っ人:王女リリー、その他:サライ村メンバー) 遊軍(弓部隊:ラピス、ココ)
敵: 白蛇(王妃)、
中立: 闇の戦士(ゴットフリー率いる)
リスク: 失敗した場合の重罪、王女の人気低下、敵の攻撃、闇の戦士の暴走
チャンス: 王妃の暴政を終わらせる、国民の自由と権利を回復する、ジャンの援助、闇の戦士の力を借りれる
― ・ ― ・ ―
迦楼羅は、それを見て、へぇっと目を輝かせた。
「グウィンって本当に慎重ね。私だったら、クーデターに参加したとしても、正面突破しか考えないかな。王妃の白蛇なんて、私の剣で一刀両断してやるんだからっ」
立ち上がって素振りの真似事をする迦楼羅。その様子に、スカーは苦い笑いを頬に浮かべた。
実践が苦手なグウィンと違って、迦楼羅の容赦のなさと剣の腕はなかなかのモノだと、巷の噂を耳にしていたからだ。敵を敵とも思わず挑んでゆく性格は父親ゆずりか……そして、剣技においては、ゴットフリーの才能は、どうも双子の姉の方に引き継がれているらしい。
だが、グウィンの方は剣の話題になると、いつも顔を背けるのだった。剣の腕は悪くないが、剣で人を傷つけることに抵抗があるようだった。
時計は午後六時を指していた。
その時、
「迦楼羅、グウィン、夕食が出来たよ~。ラピスも今、戻って来たよ~。だから、スカーも一緒に下に降りておいで~」
一階から夕食の知らせを伝える、フレアお婆さんの声が響いてきた。
「ラピスが仕事を終えて、戻って来たみたいだ。だったら、レインボーヘブンの伝説の続きは、夕食をとりながら、クーデター軍の最前線で戦った、俺とラピス、二人で話してやることにするか」
「うわぁ、楽しみ! きっと大迫力だね」
瞳を輝かせた迦楼羅がソファから飛び上がった。だが、グウィンは首を傾げてスカーに目を向けた。
「最前線? 確か、ラピスさんと、母さんは遊軍だったよね。それって、クーデターの時に、ラピスさんたちが皆の先頭に立って戦わなきゃならない事態が起きたってこと?」
だが、スカーはグウィンに意味深な視線を送って言った。
「それは、ラピス本人から聞いた方が良いかもな。だから、スープが冷めないうちに、さっさと下へ降りて行こうぜ」
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