第29話 闇の王か、光の王か?
「闇の王、夜叉王、レインボーへブンの王……ゴットフリーの本性は、いったい、どちらなんだ?」
「それは……」
タルクの問いに、ジャンは戸惑った。その時、
「伐折羅! お前も死んで父親の所へ行ってしまえっ!!」
それは、一瞬の攻防。
先頭を切った盗賊の首が、ころんと地面に転がるまでの。
「あ~あ、今、僕に触れると、みんな、同じ目に遭うよ。それより、馬鹿をやっていないで、僕の言うことを聞いてよ」
闇に護られた伐折羅が、透き通るような笑顔を見せた。
闇が、男を瞬殺した!? で、でも、何も見えないぞ。盗賊たちは震えあがって後ずさる。
「……って言っても、このままでは、今、燃えている火は町全体に広がって、結局、みんな焼け死ぬよ。お前らだって、まだ死にたくはないんだろう? だから、破壊するんだ。この一角の家々をすべて!」
「えっ? ま、町を壊すって……ど、どうして? お前は町を守りたいんじゃ……」
伐折羅の言葉に盗賊たちは動揺した。
「本当に頭が悪い連中だな。数珠つなぎの家々をそのままにして置いたら、火は燃え広がるばかりだろ。だから、壊せ! 粉々に。燃える材料がなくなれば、とりあえずの炎は防げる」
まだ、動き出さない盗賊たちに伐折羅がいらつき始めた時、
「伐折羅のいう通りだ! ただし、壊すのは今、燃えている家だけだ。住民がいたら、逃がしてやれ。そして、まかり間違っても無事な家に手をかけたり、盗みを働いたりは、するんじゃないぞっ!」
目の前に現れた巨漢に、盗賊たちはぎょっと目をみはる。
「わかったら、さっさと行けっ!!」
タルクの大声に度肝を抜かれて、盗賊たちは大慌てで作業をし始めた。
「そうだ、破壊しろ! この一角が燃えてしまっても、黒馬島は守られる。だから、遠慮なんかいらない。壊して、壊して、壊しまくれ!」
伐折羅はそう言うと、すうっと夜の空気を吸い込んだ。きな臭いこげた香が胸いっぱいに広がってくる。甘美だった。だが、心は半分も満たされてはいない……だって、黒馬島の空にはびこる海の鬼灯を僕はまだ、始末していない。
「ジャン! タルクの後にいるんだろ?」
黒い鳥に飛び乗りながら、伐折羅はジャンを呼んだ。
「伐折羅……お前」
「海の鬼灯は僕が片付ける。知ってるよ。ジャンはあれに手が出せないんだろう。それで、よく、あの人と一緒に旅ができるね」
「……」
「ジャンはゴットフリーにはふさわしくないよ。だって、あの人には闇を支配できるだけの技量がある。黒馬が彼を背にのせたのを見ただろう? ご神体が認めたってことは黒馬島を統べる者である証なんだ。この島は僕が率いる戦士たち……闇によって守られている。ゴットフリーから離れてくれ。僕が彼のそばにいる。これからは、ゴットフリーと僕でこの黒馬島を守ってゆく」
「勝手なことを言うな! ご神体が認めたからって、ゴットフリーが黒馬島を統べる必要がどこにある? 彼はレインボーへブンの王になる男だ。そのために、僕は……僕らは虹の道標を追っているんだ」
「レインボーへブン……お母さんがいつも話してくれた至福の島か。だが、ゴットフリーがその王だなどと、決めたのは誰だ!」
ジャンは、言葉を失った。
それを決めたのは……アイアリス……レインボーへブンの女神だ。黒馬島のご神体がゴットフリーを認めたことと、それは、何も違いがない。
「ほら、見てみろ。答えられない。ジャンは普通の人間じゃないな。お前と海の会話を聞いていたぞ。レインボーへブンの欠片……あの島が海に沈んだ時にばらばらに飛び散ったという、その欠片の一つなんだろ? お前だって、海の鬼灯と変わらない……ゴットフリーを無理に引き込もうとしているバケモノみたいなものじゃないか」
「それは、違うぞ!!」
その野太い声が響いてきた時、伐折羅の勝ち誇った表情が一瞬、崩れた。
「ゴットフリーは、隊長は……レインボーへブンを探しているんだ。ガルフ島に残してきた人々を至福の島に導く為に! レインボーへブンの王だかなんかは知らんが、彼が一番、求めているのは、闇の王でも黒馬島の統治者でもなく、平和な島、至福の島、レインボーへブンなんだ!」
ちょっと、政治家の選挙演説みたくなってしまったと、タルクは苦い笑いをもらす。その様子を見て、ジャンは破顔した。
「そうだ。運命を決めたのは守護神アイアリスだが、レインボーへブンへの虹の道標はゴットフリーの意思で示された。僕ら……レインボーへブンの欠片たちが、彼を招いたわけじゃない。至福の島を探すため、ゴットフリーに、僕らが率いられているんだ」
ちっと舌をならすと、伐折羅は黒い鳥の背に乗り、
「好きに言ってろ。これから、僕はゴットフリーの元にゆく。安心して、海の鬼灯は僕と彼とで皆殺しにしてやるから。ゴットフリーは必ず、僕を選ぶ。
そう言って、空に飛び立っていった。
* *
黒馬島の上空は、ますます赤みを帯びていった。
空に広がった海の鬼灯は、燃え盛る炎馬が駆けるほどにその数を増している。
ジャンは遠目が利く。その目に映るのは、彼が作り出した天の道を炎馬を追いながら駆けてゆく黒馬。その後方には伐折羅が乗った黒い鳥。
黒馬の背の上にゴットフリーの姿を見つけた時、ジャンは泣きたいような気分になった。
僕はゴットフリーに何もしてやれない……
だが、ジャンの横に立つタルクは、力強く言った。
「選ぶも選ばないも、ゴットフリーには、ジャン、お前が必要だと思うよ。隊長が闇の王になりかけた時、お前はその声を聞いたんだろう」
ジャンは、タルクの言葉にはっと表情を変える。
「ゴットフリーは、僕を……、僕を探していたんだ。たしか、そう……あの声は、こう聞こえた」
……ジャン、お前、どこにいる?
「ジャン、お前、どこにいる」
タルクは破顔すると、ジャンの肩をぽんとたたいた。
「ほら、見ろ。最悪の場面で、ゴットフリーが思い出したのは、伐折羅でも海の鬼灯でも……俺でもなく……ジャン、お前だったんだよ!」
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