第15話 レインボーヘブンの欠片 大地

 スカーたちがいた倉庫の裏を過ぎ、しばらく歩くと壁の向こうに島主リリアの館の正門が見えてきた。


「スカーたちが、あの倉庫の中でトンネルを掘ってたなんて、ヤバくない? でも、どこに繋げようとしてたのかな」

「さぁな。ゴットフリーに知られたら、ってことだけは、僕にも分かるけど」


 ジャンはココを見て笑う。リュカは相変わらず、マイペースで二人の後をついて来る。


 正門の奥にそびえ立つリリアの館は、四方を隔壁に囲まれ、窓という窓全部が繊細な模様の窓枠で覆われていた。それは、遠目で見ると鉄格子のようにも思われて、美しい反面、牢獄のような雰囲気さえ醸し出していた。そして、館の壁はまるで昨日造られたかのように完璧に白く、ジャンは違和感を持たざるをえなかった。


 壁を毎日、みがいてでもいるのか。なぜ、この館はここまで汚れがない?


 建物とは、年月と共に朽ちゆくもの、そして、歴史を語るもの。だが、この館からは何も感じない。完全な沈黙……この館は無機質すぎる。


 ジャンは、しばらくの間、考え込むように館を眺めていた。すると、

「ジャン?」

 ココがジャンの顔を覗き込んできた。もう慣れてしまった。……が、ジャンが黙りこんでしまうと、ココはどうしても不安になる。


「あ、ごめん。さあ、行こう」


 ジャンとココは正門に向かって歩き出した。リュカは黙って二人の後をついて来る。門の内側と外側の双方には、厳しい顔をした警護隊が一人ずつ配備されていた。

 ごくんと唾を飲み込むと意を決したようにココが言う。


「ジャン、この館に入る前に、どうしても聞きたいことがあるの」

「何? 急に?」

「あのね……ジャンって……人間?」


 質問が唐突すぎる。ジャンは思い切り吹き出してしまった。


「何を言い出すかと思ったら……人間に決まってるじゃん」

「嘘つき! なんで、人間が剣の刃を握れるのよ。山を造るのよ! 私の腕を一瞬で治しちゃうのよ!」

「嘘つきって……」


 やれやれとジャンは首をすくめる。言い訳するのも面倒くさくなってきた。


「ああ、そうだな。僕は人間じゃないよ。ご名答!」


 え……人間じゃないの? 本当に?


 ジャンがごまかしても、何とか秘密を暴いてやろうと思っていたのに……こんなあっさりと認めちゃうなんて……


「じゃ、やっぱり……バケモノなの?」


 その時の少女の神妙な顔ったら。ジャンは笑いたいのをぐっとこらえる。


「ええっとね、少なくともバケモノではないと思うよ。いうなれば、僕は自然のもの……山や大地、空や風、そういったたぐいの物なんだ。そして、僕はかつて僕の中で幸せに暮らしていた住民たちを探すために、ここへやって来た」


 ジャンはふと、リュカに目をやる。すると、くるんと拗ねたように向きを変えると、リュカはその場に座り込んでしまった。


 一方、ココは信じられない面持ちで、目の前の快活そうな少年の姿をもう一度、見直してみた。


「それって? まさか……レインボーへブン」


 ジャンはこくんと頷き、言う。


「そう。嘘も偽りもなく、僕は”レインボーヘブンの大地”、そのものなんだよ」


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