十一月・数日後
先日の約束通り、僕たちはカフェにいた。全国チェーンのカフェの中ではおしゃれな部類に入るであろう内外観の店。彼女は紅茶、僕はコーヒーを飲みながら他愛のない会話をしていると、
「松田さんの身長って176センチなんですよね?」
「そうだけど、」
「誕生日は6月、確か弟さんがいるんですよね?」
「どうしてそんなことを知ってる?」
つい語気が荒くなる、だがこんなことを言われたら誰だって驚くだろう。僕が相当怖い顔をしていたのか、彼女は慌てて店長と先輩から聞いたと白状する。あの二人から聞いたのなら仕方がない。強い口調になってしまったことを謝罪する。
先ほどの会話のせいか、カフェの暖房が少し熱く感じて僕は羽織っていた薄手のコートを脱ぎ、座っていた椅子に掛けた。それに合わせるように彼女も上着を脱ぎ、ソファに小さくまとめて置いた。彼女が両手で上品にティーカップを口元に近づけた時、彼女の左手首の傷が少しだけ見えた。慌てて視線を外す。
「これ、気になりますか?」
「ごめん、ちょっとだけ」
聞くと高校卒業後に一度就職したものの上司からのパワハラに遭い退職、心を病んでしまった。これはその時に自傷したものだと。今は快方に向かっているのでアルバイトで再出発をしようということらしい。ずっと大学生だと思っていたので驚いた。それと同時に、ふさわしい言葉が見つからずに黙ってしまう。
「あ、でも右腕の傷は猫ちゃんに引っかかれちゃったやつです!」
彼女のこの一言が無ければお通夜になるところだった。これがきっかけで他愛のない会話に戻る。
結局この日はカフェで数時間話した後、お互いの帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます