第8話

「えへへ、昔の健に戻った。でも今回は私が悪いから好きにしていいよ」

 

 小学生時代の君ならそんなことは言わなかった。

 

「僕と違って青葉は変わったんだね」

 

「健だって変わったよ。話さないうちに大きくなったね!」

 

 この時からだった僕が君を意識し始めたのは。

 

「青葉が小さくなったんじゃない?」

 

「そんなことない! あの頃からずっと身長変わってないもん!」

 

 こんなくだらないことを話し合える女子は僕にとっては君一人だった。

 

「健はさ、訊かないの?」

 

「何を?」

 

「何で私があんな所にいたのか」

 

 聞きたくないわけない。だけど、あれだけ泣いていた姿を見て、ずけずけと土足で踏み込むことなんてできない。でも、君が語りたいなら遠慮はしない。

 

「じゃあ、遠慮しないから何があったか教えて?」

 

 君は不機嫌そうな顔を浮かべていた。

 

「何か言い方が嫌!」

 

「分かった。聞かせてよ、青葉があんな所にいた理由」

 

「これと言って何にも変わってないじゃん」

 

「ごめん。言い方なんてわからない」

 

 君は呆れた顔を浮かべていた。

 

「もう、まあいいや。あ、あのね、今日じ、実は同じクラスの岩佐くんに告白したの。まあ、結果は想像できると思うけど、そう言うことなの……」

 

「そうなんだ……と言うか、岩佐って誰?」

 

「あ、そっか。クラス遠いから知らないのか。同じクラスの男子で、空手部に入っている子。いつか紹介できる日が来るといいけどね」

 

 こう言う話に慣れてない僕は、なんてフォローするべきなのか分からなかった。できることは茶化すことくらいだった。

 

「もしも付き合えたらの話だけどね」

 

 君は少し怒っていた。

 

「大丈夫だもん! 健の助力なしでちゃんと付き合って、ちゃんと紹介するもん!」

 

「紹介はいいよ。紹介されても気まずいだけだし。それに、その子に変な目で見られたくもないし」

 

「それもそうだね」


 何故か、妙に気まずい空気になっていたから、この空気を変えるべく僕は合う提案を君にした。それは……

 

「そろそろ帰ろっか」

 

「うん、休憩終わり。ラストスパートだね」

 

 そんなわけで僕らはまた大雨の中自転車を漕いだ。学校を出た時よりかは雨はましになっているけど、まだまだ大雨と表現するのが正しいくらいに雨は降り続けていた。

 

 「健ー! 今日はありがとねー!」

 

 分かれ道を少し進んだところで君はそう叫んだ。

 

「まあ、また振られた時は任せてよ!」

 

 僕も同じように叫んだ。風が木々を揺らし、叫ばなければ声が伝わることはなかった。


「次は絶対に振られないから大丈夫ー! じゃあねー!」

 

 そう言って君は手を振りながら家の中へと入っていった。

 後日談だけど、僕は次の日熱を出して学校を休んだ。あれだけの雨の中、自転車を二十分も漕いだら当然か。それでも君は熱を出すことなく学校に行っていたらしい。すごいなーと思っていたけど、僕が次の日学校へ行くと君は学校を休んでいた。僕と君のメッセージのやり取りもここから再開された。

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