第7話

 流石の僕も泣いている知人を、こんな雨の中置いて一人で帰ることはできなかった。

 

「榎本こそ何しているの?」

 

 両手で慌てて涙を拭って君は立ち上がった。

 

「いや〜、恥ずかしいところを見られちゃったな〜でも、見られたのが健でよかった。あ! そうだ、健今絶対暇しているでしょ? 久しぶりだし、一緒に帰らない?」

 

 僕は今までの経緯を君に話した。特に雨具がないと言うことを重点的に。

 

「そうなんだ。大丈夫、私も持ってないから。それに多少雨に濡れても服さえ乾けば何とかなるよ!」

 

 服だけが問題じゃない気がするけど、元々諦めていた僕は君の言葉に頷いた。

 

「じゃあ、行こっか。まずは自転車!」

 

 靴箱から自転車置き場の三十メートルくらいを全力で駆け抜けた僕らは、もうすでにびしょ濡れだった。

 

「次はあそこのスーパーまでね。地下に駐車場あるからそこまでダッシュ!」

 

 こうし僕らは大雨の中、必死で自転車を漕いだ。並走して自転車を漕いでいたから君は横目でちらちらと僕の方を見て何かを言っているようだったけど、いくら耳をすましても雨の音しか聞こえなかった。スーパーに着くと休憩と雨宿りがてら、軽くサンドウィッチを食べた。

 

「健! さっき私の話無視してたでしょ!」

 

「無視なんかしていない。雨の音で何も聞こえなかった。榎本だって僕が、何? って言ったの聞こえた?」

 

「も、もも、もちろん聞こえたよ……」

 

「嘘。何も言ってない。やっぱり何も聞こえていなかったじゃん」

 

「だ、騙したな! 健のバカ! 何でさっきから私のこと苗字で呼んでるの!」

 

 何だそんなことを気にしていたのか。と言うか声が大きい。

 

「それは……そうしようと言ったのは榎本だから……」

 

 君はまたしても大粒の涙を流していた。

 君が泣き止むまでに経緯をお話ししよう。あれは確か夏が来る少し前、と言うか僕らの最後の会話。君が人気なない階段に呼び出したと思えば、「恥ずかしいからこれからは苗字で読んでいい? あ、君も私のこと苗字でいいから」そう言って君は教室に帰った。まあ、中学生になったしそれくらい当然かと、理解して実践したのに何で君は泣いているんだ?

 

「た、健……ご、ごめんなさい……あ、あの時は、私も揶揄われて恥ずかしくて……その……た、健を傷つけるつもりなんてなかったの……」

 

 側から見れば僕が泣かしたような、と言うか僕が泣かしたのか。こんな時、どんな言葉をかけるのが正解なのか、今の僕には見つけられなかった。

 

「えの……いや違うか。あ……あ、青葉。ごめん僕も言いすぎた。で、でも、僕だって恥ずかしいから、みんなの前では苗字でもいい? 二人きりの時はちゃんと下の名前で呼ぶから……」

 

 君は涙を拭いながら笑った。

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