第3話
そう、僕の好きな人は君の知っている人。だってそれは“君”なのだから。
「うん、そうだよ……」
「えー、めっちゃ気になるー。ダメ?」
「ダメ。それだけはまだ秘密」
「健は私の好きな人知ってるんだから、健だけ秘密なんてずるいよ!」
返す言葉に悩んだが、それっぽいこと言って難を逃れた。
「僕なりの覚悟が決まった時、その時は君にちゃんと話すから、それまでは我慢してて」
「うーん……分かった……」
君は全く納得できないと顔に浮かべていた。が、信号待ちで突然何かを閃いたように両手を一拍叩いた。
「あ! そうだ。もし健が告白して、もし振られたら今度は私が健を慰めてあげるよ」
君はいいことを言ったつもりなんだろうけど、その日は必ずやってこない。だって僕の好きな人は君なんだから、そんな君に告白してもし振られて慰められても嬉しくなんかない。逆に苛立ちしか湧かない。
だけど、僕は嘘をつく。
「うん……約束だよ。もし僕が振られた時はよろしく」
「任せてよ! こう見えて私、誰かの失恋話を聞くのは得意だから!」
黄昏色に染まる空は、都合よく僕の顔を隠した。今の顔を君に見られるわけにはいかない。多分すごい顔をしていたから。
「健! 私の話聞いているの?」
さっきまでのオレンジ色の空は急に消え去り、気がつけば辺りはもうすっかり暗くなってしまっていた。
「ごめん考え事してた……」
「もう! じゃあ、もう一回言うけど、健は好きな人に告白したりしないの?」
君のその質問に僕は言葉を詰まらせた。
だって、僕だってできるなら告白はしたい。君と付き合いたい。でも、それをいつも阻んでいるのは君の方だ。君に好きな人ができて告白しに行っている。そんな中、僕が告白したところで、振られるのはわかりきっている。僕に入る余地なんかない。
何も言わない僕に痺れを切らしたのか君はこう言った。
「告白する時は事前に教えてね。私も色々と準備することがあるから」
多少の時間差はあるけど、僕はさっきの君の質問に答えた。答えたと言うよりかはちょっとした愚痴をこぼした。
「僕は告白はできないかな……。僕は今の関係がのままが好きだから壊したくないんだよね」
胸の内を語ったが君は僕の意見に否定的だった。
「それは違うよ健! 確かに付き合う前のドキドキ感が一番楽しいって言う人もいるけど、付き合ってからお互いのことをもっと知って、付き合う前より楽しいことや悲しいことをもっと共有できるんだよ! だから、絶対付き合ってからの方が方が楽しい意に決まっているよ! そりゃあ、健が誰かと付き合って一緒に帰ってくれなくなることは寂しいけど、私は応援するよ! 健とその人がうまくいくといいね! そんなわけで、好きな人の名前を教えて?」
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