第2話

 君は何故か盛大な勘違いをしていた。

 

「ははっ。山河内さんはいい人だし、尊敬はしているよ。だけど、僕じゃ相手にならないことくらい自覚しているよ。僕の隣に山河内さんが似合うわけないだろ?」

 

 自虐を君に笑って欲しかった。だけど、君は笑うことはなかった。

 

「じゃ、じゃあ、健はあの子のこと好きじゃないの?」

 

「人としてはすごいと思うよ。だけど、僕じゃ相手にならなさすぎて好きって感情は湧かないかな」

 

 僕がそう言うと君は安心しきった顔を浮かべていた。

 

「よかったー。健めであの子のこと好きだとか言ったらどうしようかと思ったよ」

 

「へー。じゃあ、もし僕が山河内さんのこと好きって言ってたら青葉はどうしてた?」

 

 君は顎に手を当てて考えているようなポーズをとった。

 

「もし、健があの子のこと好きって言ってたら、私は取り敢えず健と友達辞めているね」

 

 考えていたようなポーズをとっていた割に即答だった。

 

「それは、恐ろしいね」

 

「当たり前じゃん! あの子は私のライバルなんだから!」

 

 ライバル。山河内さん自体は君のことをそんなふうに思っていないだろうから、本当にライバルと呼べるのか。いささか疑問ではあるが君のためにそのことは黙っておく。

 

「と言うか、さっきから、山河内さんのことあの子、あの子って言っているけど、どうして名前で呼ばないの?」

 

 君は両手で耳を塞いで、どこかの神社に飾られている猿のような格好になっていた。

 

「別にあの子のこと嫌いってわけじゃないけど、その名前嫌なくらい聞かされているからあまり聞きたくないし、言いたくもないの」

 

「それはごめん……」

 

 僕は取り敢えず謝罪しといた。

 

「いいよ。別にわざとじゃないし、健はあの子のこと好きじゃないって分かったから」

 

「うん……」

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうっか?」

 

「そうだね」

 

 オレンジ色に染まり始めた空と太陽を正面に、僕らは家路についた。昼間より低い位置に降りてきていた太陽は、僕らの帰りを邪魔するかのように眩しく光っていた。

 

「ねえ、健は好きな人とかいないの?」

 

 会話のなかった僕らの空気を裂くように、君は唐突にそんなことを訊いてきた。

 

「唐突だね……」

 

「それが私の取り柄でもあるからねー」

 

「そうだね。好きな人でしょ。いることはいるよ」

 

 君は急に興奮し、普段よりも大きな声でまた僕に質問をぶつける。

 

「え! 誰なの?」

 

「それは秘密」

 

 秘密というか、僕の好きな人は君には言えない。

 

「何で秘密ななの? 私に好きな人知ってるのだから教えてよー。あ! もしかして私の知っている人? だから言えないの?」

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