君への想いに乾杯

倉木元貴

第1話

 君はさ、どうして泣くのをいつも我慢しているの? どうして無理だとわかりきっている争いに自ら参加できるの? 教えてよ君の痛みを僕に全部……

 これはもはや三ヶ月に一回の僕のルーティンだ。体育館へ入る階段でゆずサイダーを買って君を待つ。僕はいや、君だって結果がどうなるのかわかりきっている。君は傷つくだけなのにこれを毎回続ける。

 そんなことを考えているうちに君は現れた。

 

「たけるー。またダメだったー」

 

 君はいつものように振る舞っているつもりなんだろうけど僕にはわかる。というか、そんなに瞼を腫らして気付かない人はいない。だけど、深くは触れない。

 

「お疲れ様。これ、新商品のゆずサイダー。君が来るの遅かったから時間が経ってしまって温くなっているけど、多分まだ美味しいよ!」

 

 僕が差し出したペットボトルを君は無言で受け取り、ペットボトルのキャップを外し疑問を顔に浮かべながら一口飲んでいた。

 

「う〜ん! やっぱり温いね!」

 

 飲んだ第一声がそれだった。

 

「でもこれすごく美味しいよ! 冷たかったらもっと美味しいのだろうなー」

 

 その目は新しいのを買ってこいと言っているようだった。

 

「はあー。新しいの買ってこようか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。あ、健は違う味なんだね。ゆずサイダー一口あげようか?」

 

「大丈夫。飲んだことあるから」


 いくら幼馴染と言えど、高校生にもなってそんなことはできない。

 

「そうなんだ。なんかずるい」

 

「別にずるくはないでしょ?」

 

「新しいやつなら健と一緒に飲みたかった」

 

 僕は言葉を失った。そして胸に誓った。これからは新しい味が出ても一人で先に飲まないと。

 

「で、今日はどうだったの?」

 

 さっきまでの楽しい雰囲気はどこかに消え去り、一気に曇り空に包まれたように俯いた姿勢で小さな声で話し出した。

 

「やっぱり、世の中可愛い子か頭がよくて運動ができる子がモテるんだね。可愛くて頭が良くて運動も得意で、おまけに誰にでも優しいなんてずるいよね。そんなの反則だよね。学級委員で生徒会にも入っているし人望も厚いし本当にずるよ。私にどれか一つでいいから分けてくれないかなー」

 

 虚に空を見上げる君に、優しい言葉の一つでも掛けることができればいいいのだろうけど、今の僕にはそんな言葉は思い浮かばない。

 

「負けていることは自覚しているんだね」

 

「そんなの当たり前じゃん。ああ言うのは小説とか漫画の物語だけの登場人物なの。現実にいていい人じゃないの。あの子に敵う人なんてこの世に存在してないよ。ま、まさか健もあの子のことが好きなの?」

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