店じまい
白鷺雨月
店じまい
今からおおよそ三十年ぐらい前の話だ。
僕の両親は共働きだったため、日曜日は五百円をもらってそれでお昼を買って食べていた。中学生になるとお店で食べるようになった。
五百円で食べられるお店はかぎられている。
僕のなかで選択肢は二つであった。
それは南海岸和田駅の近くにあるイズミヤの中の喫茶店カトレアでナポリタンを食べるか、宮本町にある中華屋さん
特に蓬莱山の長崎ちゃんぽんはボリュームたっぷりで食べ盛りの中学生でも満足できるものであった。カトレアのナポリタンも美味しいのだが、ボリュームという点で長崎ちゃんぽんの方が僕は好きだった。
スープまで飲み干すと蓬莱山の店長がよう食べたなと誉めてくれたのを今でも覚えている。
とある日曜日、僕はいつものように自転車をこいで蓬莱山にむかった。
でも残念ながら、店はシャッターがおりていて、どうやら休みのようだった。
定休日は月曜日のはずなのに、おかしいなと僕は思った。
「ああっS君やな。すまんな、今日はうち休みねん」
そう言ったのは蓬莱山の店長であった。ちなみにその店長は僕の母親の同級生であった。
「そうなん、じゃあおっちゃんまた来るわ」
休みだったら仕方がない。僕はイズミヤにむかった。
夕方になり、母親が仕事から帰ってきた。
ファミコンのゲームをしている僕に母親は慌ただしく言った。
「お母さん、これからお通夜行かなあかんねん。北町のいろはで肉うどん頼んじゃあるから、悪いけどそれ食べといて」
母は帰ってきたと思ったら、喪服に着替えて家を出ていこうとしている。
「誰かなくなったん?」
家を出ようとする母に僕はきいた。
「昨日な蓬莱山の大将が交通事故にあってな、入院してたけど、今日のお昼ぐらいに亡くなってしもたねん。ほんまに急な話やわ」
そう言い、母親は家を出ていった。
店じまい 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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