第33話 仲介者①

波の音が 聞こえる

 ランダムで それでいて心地よいリズムで

風の音も加わる

 どこからも 来た先も教えないままに

きれいな音は 響いても

 こころに まるで響かない

ただただ人の叫びが

 次第に 大きくなってゆくから

もうなにも 聞こえない 

ここはどこ?


 また夢を見ていた。目を開いたが、少し視界がぼやける。起き上がろうとしたが、身体に少しも力が入らない。人の声が聞こえる。

「わお…やっぱり…は特別だ…こんなリズム…じゃありえない」

「感心し…、急げ もうじき薬も切れる…をつなげ」

 2人いるらしい。声が頭を響いて、ピリピリと痛い。視界にも影が二つ見えるが、輪郭がはっきりと見えず顔がわからない。

「おっと…オム先、残念だ 時間切れのようだ」

 影の1人が顔を近づけたおかげで、ようやくその顔がわかった。ウィラー先生だ。

「…!………!」

 声を出そうとしたが、力が入らない。手に力を入れてみたが、それすら叶わない。ウィラー先生の声を聞いて、奥の方から髪の白い老人が視界に映った。

 その男はアゲハの顔をしばらく視た後、少し考えてウィラー先生に話かけた。

「やむをえん 先に魔法抵抗を測定、終わり次第撤収する 固定具を付けろ」

 ウィラー先生は軽く返事をし、手足に固定具と言われたものを付ける。透明の、

少し厚みのある布のようだった。

 何のために?今や、手にも足にも力が入らず動かせないのに固定具?

 老人もウィラー先生の反対側に立ち、足の固定具を付け始めた。この顔、どこかで見た気がするのに…思い出せない。老人が独り言のように、話しかけてくる。

「花見アゲハ 今から言うことは覚えておかなくてもよい どの道、後で記憶は消す

わしの名はオム・ド・ロシュ―ム 多少手荒に連れてきたのには理由がある

が、今はそんなことどうでもよい 君のおかげで新たな知見を得られた、感謝する」

 新たな知見って何のこと?そもそも、拉致したのに感謝?謝罪じゃなく?

わけが分からない…でも、怒る力も湧かないほどに全身脱力している。

 オムと名乗った男は足に固定具を付け終えたらしく、今度は手の方に来た。

アゲハの手首を押さえる。


瞬間、痛みが腕から手へ。手から指先へと伝わる。電気が流れたような鋭い痛みだ。

思わず目を閉じる。


「そう…それだよ、それ!私が気になってるのはその魔法だよ!」

 目を開くと、指先から診察台だろうか、そのあたり一面を凍らせていた。

オムの左手も二の腕あたりまで氷で覆われている。オムは特に気にすることなく、

氷を手で砕いた。どうやら表面だけ凍っていたらしい。

 ウィラー先生に向けオムが呆れたように言い出す。

「何を…自分で見つけたように言いおって

わしが指摘するまで興味すら向けておらなかったというに」

 今の痛みがきっかけになったのか、段々視界や耳がハッキリしてきた。

目で部屋の周りを見ると、所々凍っている。何度も凍らせたのか?

「うんうん やっぱりこの魔法…魔法じゃない あまりに魔法が実体化しすぎてる」

「ウィラー、お前はどう見る?」

「一番わかりやすいのはその人の練度が高いって場合だけど…」

「今まで100%実体化された魔法は観測されていない」

「それね 私はこの子がその第1号だと思ってる」

「他には?」

「ほかぁ? 

あとは…互いに強め合う、しかも異なる情報の魔法が混ざる場合だけど…

それこそありえないでしょ 1つの魔法で1つのシグナルしかなかったし」

「だが、明らかに魔法が出るまでが早すぎる 練度が高い奴だとしたとしてもだ

もっとも、それはと考えたならば、だがな」

「一人で…魔力が魔法に変わる場所に、人でもいるとか考えてるんですか?笑」

 少し、沈黙が続く。

「ちょっと、何その間! ほんとにそう思ってるの?」

「馬鹿者!人である必要はなかろうが 仲介する物の存在、可能性はあろう」

「そんな馬鹿な」

「馬鹿かどうかは…今からわかる」

 準備が終わったらしく、2人は隣の部屋に移動する。何か電源を入れたらしく、

大きな音が鳴りながら、アゲハの頭上で装置が動く。


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異界にて、風にふるれば 利仲こころ @toshinaka-kokoro

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