第32話 視られてる
ミヨとカイナは話しているうちに南の街の駅前までたどり着いていた。
「なんじゃ、こんなところにあったんじゃな 気づかん訳じゃ」
駅のホームは2つの段状の土地、その間に埋まるようにしてあった。入り口こそ
狭くはなかったが、周りには出店の数も多く無論人通りも多い。道理で一昨日の
一度通りかかったくらいでは見かけなかった訳だ。
「どうかしたのか?」
カイナがミヨの方を見て尋ねる。そのときはカイナの方を見さえもしなかったが、
少し間を開けて諦めたようにため息、カイナに答えた。
「いや、ここに来たときは駅なんて見なかったのにな、と思ってな」
「…何だよ ちゃんと応えてくれるじゃねえか」
少しカイナの表情がほぐれた気がした。
「おぬしはおぬしのことを話したからな わしも話さねば不公平じゃろ?」
少しさかのぼって学園前の駅にて。駅の近くでさり気なく立つ男は、この都市における保安員、特に都市に入場した異国の人を管理している。本日も監視対象を仲間と追跡中、と言ったところだ。
学内に潜む仲間から報告が入る。こういうとき、手を耳に当てなくても通話できる魔法陣は本当にありがたい。我々が監視していると知られるリスクを減らせる。
普通に欲しい、仕事外で。
「こちら保安部ラス24 対象226、医務室から廊下を南に移動中
駅ホームに向かっている模様 ラス2に委譲する どうぞ」
ラス2は駅にいるこの男のコードネームだ。
手帳を取り出し、地図のページを開く。地図には226と赤い点で自身の位置が示され、今まさに226が目の前を通過しようとしていることが確認できた。
学校入口の方をちらりと確認し、対象の姿を確認した。対象が目の前を通過した後、口に手を当てながら手短に答える。
「こちらラス2 226の姿を確認 追跡を開始する どうぞ」
「ラス24 了解 以上」
対象は連絡橋を渡り、北の街へ向かう電車に乗り込んだ。再び手帳で確認、
発信機対象と一致。ラス2も電車に乗り、離れた位置から対象を監視する。
「ラス2 対象、左回り電車に乗車 北方面へ移動中」
対象は北の駅に到着、そのまま高速鉄道のホームに進む。駅内部に接続されたミストリア北関所へ入っていったことから、別の国へ移動するようだ。
今回の対象は思ったよりも早く出国するようだ。これで当分暇になる。
「こちらラス2 対象は北関所を経由 出国するようだ どうぞ」
「ラス24 了解 出国、発信機の照合を行った後撤収せよ 以上」
ラス2は、対象が”内海経由 ナーレ・フール行”のホームへ向かうのを確認。しばらくして電車がホームに到着、対象が乗り込んだのを確認してから関所へ向かった。
本来ここまで対象を確認しに来なくともいい。関所を通過した時点で引き返すことはできない。この国は入国に関しては甘いが、殊に出国に対しては非常に厳密だ。
いかなる理由でもどんなやつだったとしても、関所を出た時点で出国が確定する。
しかも、住民でなかったら出国後3か月は入国できなくなる。なんて罰だよ。
たぶん住民になった方が楽だって言いたいんだろうな。
どうでもいいが、ラス2にとっては特に問題のない監視対象を、お客として見送るくらいはしようと決めている。黙って監視していた、そのお詫びも兼ねて。
関所に向かう。受付に声をかけ、机に手を当てながら名前を言う。俺たち専用の
受付方法だ。真似すんなよ。
「あー、ピリメロイア・ラライエだ」
机が光ったのを確認してから受付が口を開いた。毎回思うが、こっちの受付は全然表情変わらないな。もっと笑ってくれ。
「お疲れ様です どのようなご用件でしょうか?」
「さっき出国したやつの発信機と申請書を照会したい」
机が光り、丸められた出国申請書が卓上から湧いて出てきた。
ミストリアの国花”アジサイ”が刻印された金色のバッチ、この発信機が申請書を綴じている。バッチを取って申請書を確認する。えーと、署名欄は…んん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます