第30話 火の記憶③

「カナメ・ルーク支部長だ!」「おお」「カナメさん!」

「遅れてすまない 皆はどこに?」

「こっちだ!カナメ」

「イナ!」

 声のする方に気づき、手を振る4人のもとに駆ける。

「まさか本当にそろっているとは」

「でも全員は無理だった」「うたいの双子さね…」

 オミとシズは残念そうに言う。

「謡の2人はどうしても見つからなかった ミストリアにいるかも怪しい」

「ミルとモルか…問題ない 加茂の舞は”神迎かみむかえの節”に絞ろう」

「それが最善だ …とにかく現状を共有し次第向かうとしよう」



オミ「わかってはいたが…僕らが最前線か」

シズ「気張りなよ!カナメが舞えるかはあたしたちに掛かってるだからねえ‼」

カナメ「あまり無茶はしないでくれよ 特にモチは」

モチ「カナメが言うまで救助に回るな、でしょ?大丈夫よ 私も昔のままじゃないわ

でもモチ、ね…ふふ そのあだ名だけは変わってないのね 久々に呼ばれたわ」

シズ「ウソ言いな!解散してからもあたしらにずっと呼ばせてたじゃあないか」

モチ「あなたほどじゃないわよ」

オミ「そうだよ 君こそよっぽどシズって名前、気に入ってたろう?

子どもにも似たような名前つけて」

シズ「しー!この野郎 任務終わるまで黙ってろって言ってたろ‼」

カナメ「子ども?もしかして…」

イナ「あーあ、バレちまったな まあ、オレもさっき知ったことだが…

シズとオミ あいつら、くっ付いちまうんだと」

モチ「真逆にいるような2人だと思ってたのにね」

オミ「すまない、カナメ こんなときに」

カナメ「いや…俄然やる気が出た 私たち近衛は死して守るためにあるのではない

もうじき現場だ 守るべき者のため、生きて皆を守る盾となろう」


 移送車が止まる。これ以上進めないと判断したのだろう。

カナメが扉のノブに手を掛けながら指示を出す。

「先に周囲の火を消してくる 皆はそれまで“演奏”していてくれ 

繰り返すが演目は加茂、神迎の節からだ」

「「「「了解」」」」

 カナメは片方の手から増女ぞうおんなの面が、ほかの4人もシズは能管(笛)、オミは太鼓、モチとイナはそれぞれ小鼓と大鼓が、どこからともなく現れ、各々構えた。

 シズの風を切り裂くような激しい笛の音を皮切りに、他の3人も音を鳴らし独特な和音を生み出す。4人の衣装もいつの間にか紋付姿に変わっていた。

 カナメは両手で面をかけ、音に合わせて勢いよく戸を開いた。

 激しい熱風が移送車に流れ込んできたが、すぐに収まった。扉の前には、

玲瓏れいろうな衣と装飾に彩られたカナメがたたずみ、ゆっくりと車を降りた。

 片手に末広すえひろの扇を持ち車の周りを軽やかに舞えば、

一面泡で包み込み疾く彼の業火を消し去った。

 そのまま、演奏に合わせてゆっくりと火の方に向けて歩んでいった。


 再び、公園で魔法の発生源を調べるリーダー。1つ目の発生源からしばらく歩いたところに子供の姿が。光を通した色も前の発生源の赤色と若干異なっている。

 急いで子どもに駆け寄ってみると、全身が炎で覆われて弱々しくうめき声を

あげている。急いで隊員を呼び、除魔法布を被せて救助するよう指示する。

 即死を免れている以上、この子が魔法の発生源であることは確実だろう。であればこそ火魔法への耐性を持っているとは思うが…

「うぅ!これは…かなりひどいな」

 布を取り子どもの姿を見ると、全身が深い火傷で覆われ、皮膚が焼き付いたらしく目も開けられない、それほどひどい状態だった。

 息こそしてはいたが、浅く早い呼吸で危険な状態だったため、救護班のもとへ取り急ぎ運ぶよう指示した。

「とても痛ましい…子どもがあのような姿になるのはとても見ていられないです」

「ああ、だが彼が示してくれたこともある、今回の事件いや事故についてな。

魔法を使った彼自身も火傷を負っていたことだ つまり…」

「子ども2人の、火魔法同士の接触で…魔法の”実体化”が早められた」

「そうだ なおのこと急いで対処せねば…!ただでさえ火魔法の実体化は早い」

 そこへ、子どもを救護班に運んできた2人組が戻り、

「報告します!子どもの救護班への移送、身元の特定を確認しました

加えて、カナメ支部長が前線にて消火に当たるとのことです」

「おお、カナメ支部長が!」

「ええ、これで消火もすぐに完遂できます」

「貴様らも、ここでぬくぬく過ごすつもりはないだろう⁉我々も加勢に向かうぞ!」

「「「了解!」」」

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