第27話 決行日③

 放送で呼ばれ、医務室までついたアゲハとアイリス。アゲハは戸にノックをして、呼びかけた。

「失礼します 花見アゲハです」

「どうぞー」

 内側から返事が返ってきた。ウィラー先生の声だ。部屋の中に入ると、左右にカーテンレールの付いたベッド、中央には面談用の机と椅子があるごく普通の医務室で、先生は椅子に座ってお茶をすすって待っていた。

「そうか君が 花見アゲハ うん、確かに昨日見た気がするよ それと…君は?」

「中等部1年、アイリス・タウ・ムートでございます 

この国でアゲハ様がご不便のないようにと、レディより仰せ承りました」

「そう…でも、悪いけど席を外してもらえるかな?」

「それほど時間のかかるお話なのでしょうか?」

「いや、そうゆうわけじゃあないが かなり個人的な質問をするつもりだから」

「どのような?」

「今までの経験回数は」

「失礼いたします」

「…何回か、って質問なんだけど」

 言い終わる前に、アイリスは部屋の外に出て行ってしまった。

「質問っていうのは、魔法の経験回数…のことなんですよね?ウィラー先生」

「?そりゃもちろん!実はね、君のボッカ・デラのデータを見せてもらったけど 

あ、これお茶ね」

「は、はあ ありがとうございます」

 席を立って、ウィラー先生が話しながらカップにお茶を入れてくれた。手前に

出されたカップを手に取ると、冷たいお茶だとわかった。「砂糖は?」と訊かれたがアゲハは要らないと答えた。思ったよりも歩いたため、一気にそれを飲み干した。

「君の魔法は、はっきり言ってなんだ 

どう変かって言うと魔法で作られた氷じゃない、本物の氷なんだよ」

「それって、何か違うんですか?」

「いいこと聞いてくれるね‼簡単に言うと、魔法っていうのはやつ

なんだ 現実の物には全然反応してくれない」

「つまり、どういうことですか?」

、魔法は魔法同士で しかも、ちゃんと消えてくれって情報が入った魔法じゃないと全然消すことができないの! 言ってる意味、わかった?」

「えーっと?(…どういうこと?)

つまり私の魔法はそうじゃなかった、ということですか?」

「まとめるの、うまいね!そうゆうこと お茶のお代わりいる?」

「ほしいです 先生、少し話変わるんですが…この部屋暑くないですか?」

「そう?もしかして暑がりなのかな?」

 そんなはずはないが、明らかにこの部屋は今日行ったところの中で一番温度が高く感じていた。額からは汗が零れ、思わず上着を脱いだ。先生との会話がフワフワしすぎているせいとも思ったが、さっきから視界が少し歪んで見える、気がする。

「で!そこで、もう一回魔法の検査をやってほしいのよ 昨日やったのより、もっと精密なボッカ・デラで‼」

 息も苦しくなってきた。手足の指先に力が入らない。

「ほんとに大丈夫かい?ベッドで横になる?」

 机で何とか身体を支えながらうなずいた。先生が肩に手を回してベッドまで運んでくれた。とても眠い。アゲハは目を閉じ、そのまま眠ってしまった。



「オムセン…生 ターゲット、眠ったよ」

 隣のベッドのカーテンが開いたかと思うと、オム・ド・ロシュ―ムがそこに隠れていた。オムはベッドで横なった花見アゲハを見るや否や目を見開いて、

「おい何しておるんだ!早く呼吸器を付けろ 死んでしまうぞ‼」

「やば!」

 急いで、花見アゲハに呼吸器をつける。少しして、呼吸器が正常な数値を取り戻したのを確認した。

「詰めが甘い。使用した薬剤がなんであるか知っておれば、こんな初歩的なミスはしようがなかったであろう ウィラー、そんなのだから…」

「説教は今いいから あとは、どうすればいい?あのアイリスって子も」

「当然、放ってはおけまい シフマン、リコルもうしばらく待機だ」

「はい」「はい」

 オムの隠れていたベッドから、さらに2人女生徒が姿を現し、返事した。


 部屋の外で待っていた、アイリス。ひたすらさっきのウィラー先生の言葉の意味を解釈しようとしていた。

「経験回数…魔法の使用回数のことだとすれば、そんなことを数えられる人など…

いえ、アゲハ様は昨日発現されたということからの質問?そのような意図での質問と考えれば魔法の使用回数とも…いいえ、しかし…魔法とそのようなッ…関係、があるという論文が数件あった記憶も…」

 突然、部屋の扉が開いたかと思うと、ウィラー先生がアイリスの手を引いて、

「ちょっと来てくれ 花見アゲハの様子が変なんだ」

 部屋の中頃まで来ると、ベッドで横になっているアゲハの姿が見えた。

「アゲハ様⁉」

「急に暑いとか言って倒れだしたんだ 何か心当たりはあるか?」

「いえ…見当がつきません とにかく医療機関に連絡を」

 ウィラー先生の掴んだ手を振りほどこうとしたが、先生はその右手を掴んだまま離そうとしなかった。とても強い力で。

「いッ…先生、手を放してください 連絡を」

「よかった 君の電話の魔法陣、右手についてたんだね 

見当はずれじゃなくて良かったよ」

「先生何を」

 先生は、自身のもう一方の手でアイリスの首元に指を突き立て、

「悪いけど少し眠ってて “ヒート・ショック”」

 鋭い熱を首元に感じたと思った瞬間、視界が暗くなりアイリスは地面に倒れこんでしまった。


 隠れていたオムが姿を現し、一行に指示を出す。

「ウィラー その娘も生かしておかねばならん 心肺確認 念のため呼吸器、麻酔もかけておけ」

「シフマンとリコルは2人を診察着に着替えさせよ」


「第一関門は突破だ さあ、実験続行としよう」


 

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