第26話 決行日②

 カフェで食事し終えた一行。

「おいしかったね!初めて食べた味かも」

「気に入っていただけたようでとてもうれしいです」

「確かにあのソースは不思議な味をしておったな。いやぁ、うまかったのう」

「しかし、よろしかったのですか?カイナ様 お飲み物だけ召し上がって」

「オレは昼とらねぇ主義だから大丈夫だぜ

それに、いつもの茶とは一味違ってうまかった ちゃんと満足してるぜ」

「そうだお金!どうしよう いっぱい頼んじゃった」

「アゲハ様とミヨ様、お二人は手帳を”どこかに”お持ちになっているはずですよ」

「手帳?そんなのあったっけ」

 身体に手を当てて探してみると、確かに上着のポケットにパスポート状の

手帳が入っていた。

「これのこと?学生手帳…って」「あったぞ、わしも」

「この学校の学生手帳でございます。

そちらを携帯していただければ、学園の関連施設は無料で利用できるのですよ」

「なんだよそりゃあ オレのと全然違うじゃねえか」

「なんじゃ じゃあわしはもう出て行ってもいいということじゃな」

 ミヨはそそくさと店の外へ出て行った。店員に呼び止められることもなかった。

「あ!おい 待ちやがれ猫耳‼」

 カイナは財布を懐から出し、小銭を会計にたたきつけてミヨを追った。

「お客様‼おつりが」

 店員が呼びかけたころには、二人の姿はもう見えなくなっていたようだ。

「私たちも少ししたら出ようか」

「そういたしましょう」


 高等部側ホーム。ちょうど電車が着いていたのを見て、ミヨは電車に乗り込んだ。しかし、発車の合図が鳴り響く中、扉が閉まる寸前でカイナは間に合い、そのまま

ミヨは捕まってしまった。

「しつこいのう いい加減一人にさせろと言っておろうが!」

「お前こそいい加減にしろよ‼ なんたってそう落ち着きがねえんだよ」

「わしは猫じゃ! おぬしは仕事でわしに付いて回らねばならんのだろうがのう…

のあるようなヤツに、わしの自由を奪われるのは甚だ不愉快じゃ」

「はぁ?要はお前の気の持ちようじゃねえか オレは気ィ使われるほど弱くねえよ」

「はー…そこまで言うなら、仕方ないのう 一緒に居ればいいんじゃろ」

「最初から…」

「ただし、おぬしはいないものとして振る舞え わしの邪魔だけはするなよ

あと、わしより前に出るな それができればかまわん」

「ええ…?」


 しばらく談笑し合って後、カフェから出たアゲハとアイリス。

「さて、これからどちらに行きましょうか?」

「そうそう、それどうしよっか アイリスは今日授業ないの?」

「わたくしは…3時から1つあります」

 時計を確認しながら言う。

「何の授業なの?って、そもそも私付いてってもいいやつ?」

「神経回路学基礎の授業ですね」

「なんか難しそう…」

「本日はガイダンスなので、あまり身構えなくても問題ないと思います。 

先生も歓迎してくださるでしょうし…とても受講生が少ないので」

「そうなんだ!じゃあ見てみたいかも でも、あと1時間くらいあるね」

「どうしましょう 昨日のように校舎を見てまわりますか?

高等部校舎もなかなか見どころはあるのですが…」

「それも…あ!行ってみたいところ、1つあった」

「どちらでしょう?」

「本屋さん‼外国の本屋で本買うの、やってみたかったの!」

「本屋様ですか…この校舎にも、お店がございますね そちらに行ってみましょう」

「本屋様…⁉」


「広っ てか、ええ…?ここ図書館じゃないのよね?」

「もちろん図書館としての側面もございますが、れっきとした書店でございます。

購入することも叶いますよ」

 アゲハは試しに一冊手に取ってみると、占いの仕方を書いた本であるようだった。

いや、絵こそなかったが

「文字が…全部日本語になってる! これも…これも⁉」

 手当たり次第に見てまわったが、どの本も外国の文字ではなかった。

「外国の本はないの?全部”翻訳”されてるよ~」

「?…なるほど!アゲハ様、失念しておりました。 アゲハ様のおっしゃった

”外国語の本”というのは、残念ながら手に入らないかもしれません」

「え?どういうこと?全部訳されちゃってる…ってこと?」

「あながち間違いではございませんが、

実は、こちらの世界ではかつて言語統一という”魔法の行使”がなされたのです」

「言語統一の…魔法?」

「はい そのため統一以降の書物はすべて、アゲハ様が使ってこられた言語に

統一されてしまっているのです」

「じゃあ、その本を買うのは…」

「閲覧することは叶いますが、厳重に保管されているため購入することはできない

でしょう 統一以前の物は大抵、国宝に指定されているということもあります」

「そんなに貴重なの⁉じゃあ…見るだけでも行ってみたい」

「かしこまりました 受付の方に申し出てまいります」

 アイリスが受付で手続きをしている間、アゲハは改めて本を手に取る。どの本も

同じ文字で書かれている。これまで街で見た文字も、聞いた言葉も間違いなく

自分の国の言葉だった。

 これが、言語統一。

「これも魔法…なんだ」

 ぺらぺらとページをめくっていると、チャイムのような短い音楽の後にアナウンスがあった。聞き覚えのある声、ウィラー先生の声だ。


『えー、学校医ウィラー・トラスから連絡。次の生徒は中等部1階医務室まで。

シフマン・ブルートゥス、リコル・アーノルド、花見アゲハ。3名

健康診断の再検診についてだ。以上』


「私も?」


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