第25話 決行日①

 計画は練られた。昨日の今日でよくやったと言える。さすがは我らがオムである。多少の賭けはあるが、欲しいデータの目処も立った。

 あとは花見アゲハ、あの女生徒が現れるのを待つだけだ。




 朝になり、アゲハは目を覚ました。何か長い夢を見ていたような気がする。

悲しい夢だ。だが、どんなことだったかは思い出せないでいた。

「あれ?」

 ただ、流れる一筋の涙がその感情を引き留めようとしている。

そんなふうに感じた。


 昨日のように朝食に訪れると、女王様やクークラルたちはすでに席についていた。女王様からは昨晩のような威圧感は感じられない。今はレディ様であるようだ。

 ふとドラキュルの方を見ると、昨日と変わらずまだ顔色が優れない様子だった。

心配で声を掛けようと思ったが、先にレディから朝の挨拶がなされた。

「おはようございます 花見さん、ミヨさん 昨晩はよく寝られましたか?」

「おはようございます!ぐっすり眠れました」「快適すぎるくらいじゃったな」

「それは大変喜ばしいことです さあ、席におつきになってください」


昨日さくじつのこと、転生者が元の世界に戻る方法について、さっそくですが我々の方で調査いたしました。 

ですが、残念ながら手掛かりとなりそうなことは全く見つかりませんでした」

「そう…でしたか…」

「ですが、まだ心当たりのあるところが一つ。。あそこであれば、転生者に関する記述があるかもしれません。

今、外使の者とも連携して手はずを整えておりますよ」

「じゃあ、アゲハが帰る方法はまだあるかもしれんのじゃな?」

「確証はありませんが、可能性はあると思います」

「本当ですか⁉」「よかったのうアゲハ」

「我々も全力でお二人をサポートするので、どうか希望を捨てないでください」


 朝食が終わり、部屋に戻るとき。今日もアイリスが先導してくれている。

「お二人は、本日どこか行きたいところはございますか?」

「うーん。さっき言ってた火の国ってさ…ここからどのくらいで行けるの?」

「火の国、ですか…レディがおっしゃっていたのは首都”ナーレ・フール”

の図書館のこととは思いますが、そちらまでですと丸2日ほどかかると思われます。

電車を使った場合ですが…もう向かわれるのですか⁉」

「結構遠いのね」

「おとなしく、話を待つのがよさそうじゃのう。

そもそもおぬしが直に行く必要もなかろう」

「確かに…その通りです。わたくしも外使の方を通して、事の所在を尋ねるだけで

事足りることのように思います」

「そっか…そうだよね」

「それにおぬし、お金持っておらんじゃろ」

「あ!そうだった。じゃあ今日どうしょう」

「よろしければ…昨日行けなかった高等部の校舎に行きませんか?

高等部にはカフェが併設されているのですよ!」

「え!何それ行ってみたい ミヨも一緒に行こう?」

「えーわしは…」

 どうにも乗り気でないミヨを2人は期待の目で必死に引き留める。

ついにはミヨの側が折れて、

「わかった!わかった!行けばいいんじゃろ、まったくのう」


 それから少し時間が経ったころ。

「…で、誰なんじゃこいつは」

「カイナ・ルークだ。親父に言われて来たってだけだ、お前を見張れってな」

「面倒な…」

 ミヨの身長の倍はありそうなカイナがミヨを睨みつける。対するミヨの方は

臆するでもなく、ただただ顔をしかめる。心底いやそうである。

「ん?ルークって…もしかしてユメリアのお兄さん?」

「!アンタ、ユメリアを知ってるのか‼どこにいた?いや…元気そうだったか」

「?うん、普通に元気だと思うよ。学校にいたし」

「そうか…それは、ほんとによかった」

「んー?」

 


 中等部と高等部の校舎は、半分校舎に埋まったようにして作られた跨線橋を通して

繋がっているようだった。一行はその橋を渡って反対ホームに向かった。

 高等部側のホームに着くと、とても長いエスカレーターが伸びていた。

「うわー先が全然見えないよ、ミヨ!」

「確かになかなか壮観じゃな」

「中等部同様、高等部は一段上の台地にある建物ですので、

このようにエスカレーターが長いのです」

 頂上に着くと、白衣を着た人やスーツを着た人がせわしなく働いていた。

「ここ学校なんだよね?なんか会社みたいね」

「いや、だいたいそんな感じだ。もともと民間の研究機関だからな」

「詳しいね、えっとカイナ…くん?」

「オレは19だ。だからどうってわけでもねぇけど」

「年上だった…!」

「ついでに言っとくとユメリアは俺の2こ下だ」

「ユメリア私と同い年なんだ(…ますます菜緒っぽい) アイリスは?」

「わたくしは今年13になりました」

「ええ!すごい大人びてて全然わかんなかった」

「そうですか?ふふ、なんだか照れくさいですね」

 微小するそのしぐさは、やはり13にしては様になりすぎているように見えた。

「お前に少しは節操ありゃあ、オレも今日自由にできたんだけどなあ。

ちったあアイリス見習っとけよ、ネコ耳」

「わしは1人でも大丈夫じゃから1人でおるんじゃ。帰りたきゃ帰ればよかろう。

ちなみにわしは”123歳”じゃ。貴様のような若造に指図される筋合いはないのう!」

「123まで生きられるわけねぇだろばーか」

「なんじゃとゴラァ!」

「あはは なんだか仲いいみたいね」「犬猫の仲、でしょうか…?」

「どこがだ‼」「どこがじゃ‼」

 

 高等部にはエスカレーターが備えられていたため、

なんだかんだと言い合っているうちに、目的のカフェに到着した。カフェは高等部

最上階、城の見える位置にあった。まだ昼前のせいか、あまり人は入ってなかった。

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