第24話 夕食で

「それでその後どうしたんじゃ?」

「その後駅行ったんだけどさー、私お金持ってないから入れなくて」

「それでそのまま城まで戻ってきたんか」

「そうなの アイリスもこの後授業あるって言って お城まで送ってもらった」

 ナツメの間のソファでくつろぎながら、アゲハとミヨはその日のことを話し合っていた。夕日は見えないが、すでに外は薄暗くなっている。

「ていうか ミヨはその後どうなったの?ノックの後」

「ミドラ団長…副団長?なんだったかのう、その団長さま直々にわしを迎えに来て

くださったそうじゃ。ご苦労なことよのう」

 毒を吐きながら、ミヨは卓上の水で口を潤す。ミヨは殊の外、ここの水を気に入ったらしい。その様子を見届けてから、アゲハがぼやくように言う。

「やっぱり私たち、好き勝手に動いたらダメなのかなぁ?クークラル先生も

ミヨがいなくなってすごく慌ててたし」

「まあ、実際危ないところはあったしのう

…にしてはわし、泳がされすぎじゃと思うが」

 アゲハも水を一口含み、思い出したように、

「そういえば、あの…ぺトネちゃん?だっけ あの子はどうなったの?

私もあってみたい!」

「ああ、あの娘はな」

 ミヨが話そうとしたそのとき、扉の外からノックが聞こえた。

「お休みのところ、失礼いたします。まもなく、夕餉の時間となります」


 朝のように、アイリスの後について廊下を歩いた。

「そのフードいいね」

「そうかのう ありがとうな」

「本当によくお似合いでございます。ミヨ様の魔法なのでしょうか?」

「魔法というか…何なんじゃろうな?わしも良くわかっとらんのじゃ」

「ね!私にもそのフードってつけれるの?私も着てみたい!」

「それはできんな わしから離れるとダメらしい」

 アゲハの残念そうな声が聞こえた。


 朝のように3人とも席に着くと、アイリスが少し緊張したようにして言った。

「アゲハ様、ミヨ様 お二人は初めてお会いになるかと思いますので、彼のお方には

直接目にされないほうがよろしいかと存じます」

「どうしたの急に 会うって誰に?」

「ルオフィア様にございます わたくしは今でも彼のお方の御威光に当てられてしまうのです それほど尊きお方なのです」

「朝言っておったやつじゃな 身体から光でも出ておるんか?」

「お会いすれば必ずお分かりすると思います」

 アゲハもミヨも良くわかっていない様子だったが、突然部屋が静まり返り従者全員が一斉に頭を下げた。扉が開き、朝のようにドラキュルが来たかと思うと、

「ルオフィア様の ご光来~」

と、ドラキュルが声を上げた。次の瞬間、アゲハの全身が震えだし扉の先の正体が

見えぬ間に恐怖、いや畏怖を覚えた。身体中から冷や汗が出て、顔を上げることもできない。それとは対照的に、

「お待たせいたしましたわ!さあ、夕餉のときといたしましょー‼」

 元気な声で、その正体は姿を現した。


「直接お会いするのは初めてですわね!花見アゲハ”ちゃん” 

ん~レディの言葉通りとてもかわいらしいですわね」

 席に着いた畏怖の正体はよく話すようだった。だが、目を合わすことができず、

ちらちらとみることしかできない。食事ものどを通らない。正面に座っている

ドラキュルやクークラルたちはとても平然としている。いや、ドラキュルだけは少し顔色が悪いように見えたが。

「ところで…わたくしのこと、もう知っていたりするのかしら⁉」

 目を輝かせながら二人に訊いているのは存分に伝わってくるが、ともかくも全身を見ることすらままならない。髪が青色ということしかまだわかっていない。少なくとも、こんなに圧倒されたことはアゲハにとって経験したことがなかった。

 ミヨの方はというと、なんと普通に顔を合わせている。

「おぬし、昨日会った変な娘じゃな おぬしがルオフィアなんじゃろ?」

「もう!わたくしのことは個性的と言ってほしいですわ 

でも覚えていてくださったのね!ちょーハピネスですわ~」

 今朝レディの言っていたことを思い出した。勇気を出してゆっくりと顔をルオフィアという正体に合わせると、朝に顔を合わせたレディとそっくりだった。表情はレディとは違いふにゃふにゃだが、間違いなく彼女だった。その瞬間、急にすっと肩の

荷が落ちたように楽になった。

「よかったら、今日どんなことがあったか わたくしに教えてくださらない?」


「アゲハちゃんは学校を巡られたのですわね! どこが一番でしたの?」

「食堂がとても楽しかったです 子供たちともお話しできましたし…

それに、私食べてる時が一番幸せなんです」

「わかりますわ~わたくしもお菓子とお茶と過ごす午後は一入ひとしお心地よいですわ」


「ミヨちゃんはつらいものになって…本当に心苦しい限りですわ 

ミドラ、彼女には必ず団員の護衛を」

「仰せのままに」ミドラが軽快に答える。

(わしは一人で動きたいんじゃがのう…)

「何か言いまして?」

「いや…それよりもぺトネ、あの娘はこれからどうなるんじゃ?」

「あの子はわたくしの友達に保護して頂きますわ!安心してくださいまし、

信頼できる方ですのよ」

 

 ルオフィア様はアイリスにも顔を合わせ、

「アイリス、今日は本当にご苦労でしたわ 引き続き頼みますわよ」

「勿体なきお言葉 しかと心得ましてございます」


 食事が終わり部屋に戻り、2人はさっそく風呂に入ってきた。寝巻も用意されていて、至れり尽くせりだった。

「こんなお風呂に毎日入れるなんて!とても幸せ」

「おいおい、ここに住む気じゃあるまいな」

「あはは でも、それはないかな」

「ほう」

 アゲハのトーンが少し下がったのを感じた。

「私は絶対帰るよ 帰らないといけないの」

 アゲハはミヨにおやすみと言い、そのままベッドで横になった。

「わしも寝るかのう 明かりは」

 そう言った頃には明かりはフェードアウトしていった。

「ほんと手間なしじゃな」



 波の音が 聞こえる

 ランダムで それでいて心地よいリズムで

 風の音も 加わる

 どこからも 来た先も教えないままに

 きれいな音 なのに

 ここでは 何も聞こえない

 ただただやかましい

 嫌な音が 混ざっているから

 もうなにも 聞こえない

 ここはどこ?


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