第23話 探検で

 階段を上り体育館の外に出たアゲハ達は、校舎をぐるりと見てまわることにした。  ちょうど降っていた雨もやんでいたため、校舎のそばにある庭園から歩き始めた。

水たまりがまだ残っていて所々あるベンチは濡れたままのはずだが、何人かは何か敷いたりしてベンチに座って皆ボーっとしているようだった。

「なんか、白衣着てる人多いね。みんな学生なの?」

「あれは高等部の学生の方々かもしれません」

「高等部って何をするところなの?」

「主に研究者を目指す方々が通われるところでございます。ほとんどが中等部から

進学されるので、昔を懐かしんでよく憩いに来られるとか」

 光が程よく差し込み、風も心地よく吹き込んでいた。学生以外に教師の姿もあり、うつうつとしている姿も見えた。

「私も眠くなってきた…」


次は校舎の中に入った。もちろん授業に使われている教室はあったが、

驚いたことに、ほとんどの教室は使われておらず学生が自由に出入りできる自習の場であるようだった。

「初等部の子もそうだったけど、みんなすごい自由にしてない?それに、

ホームの教室っぽいのもないし」

「アゲハ様の世界とは違うのですか?」

「ぜんぜん違うよ!朝から午後の4時くらいまでずーっと授業だよ。

授業もほとんどホームでするし」

「わたくしも最近になって地方から来ましたので知りませんでしたが、

この学園では初等部4年次から授業は選択制になるそうです。

わたくしも聞いたときビックリ致しました」

「アイリスの故郷は私とおんなじ感じなのね」

「その通りでございます。この学園の“自主性を重んずる”という理念が反映された

ためなのでしょうか…しかしながら、それに適応できる初等部の生徒の方々も、

やはり選ばれた学生ゆえかもなのかもしれませんね」

「選ばれた学生って?」

「この学園に入学するには入学試験を受ける必要があるのです。

初等部でさえ、全国から数百人のうち 十数人しか受からないとか…」

「イィー⁉なんか、急に生徒のみんながまぶしく見えてきたよ。

でも、その人数だったら確かにホームは要らなさそうね」

「校舎の前身が研究施設で、それを流用して使用している…つまり、そもそも学校

として設計されていないということも理由の1つとされておりますね」


 いつの間にか中等部校舎も3回まで登っていた。確かに、普通の学校にしては生徒の数が圧倒的に少ないことが感覚的に分かった。

「他にご覧になりたいところはございますか?」

「あ、電車見てみたいかも」

「アゲハ様の世界にも…電車があるのですか?」

「?うん!そこら中いっぱい走っているよ」

「そう…なのですか。すごい世界ですね」

「?」

「では1階まで下りましょう。駅は校舎と繋がっているのですよ」

 アイリスはにこやかに言った。アゲハには、アイリスの言った“すごい世界”。

このときは、まだこの意味を理解することができなかった。外の世界を知るまでは。


 階段を下り、駅に向かって廊下を歩いていたとき。アゲハが1人の女生徒と

すれ違ったときのことである。アゲハが立ち止まって、その場で振り返った。

「え、菜緒?」

 すれ違った姿はアゲハの親友の…えーの姿にそっくりだった。

その彼女も振り向いて、アゲハの姿に気づいたようだ。

「およ?どした」

「あ…ごめんなさい。友達に似ていたから」

 だが、髪の色が違う。汐留菜緒ではない。

「あーあれね、世界には似てる人が3人いるってやつね。じゃあさ、3人目見つかるまで私のことも覚えといてよ。私、ユメリア・ルーク」

 手を差し出した。アゲハもそれに答えて、

「花見アゲハだよ。よろしく、ユメリア」

「よろしくね、アゲハ」


 そのまま彼女は「じゃ、私行くわ」「後で連絡するね」

と言ってその場を後にした。

「すごいですね…お互い初対面とは思えませんでした」

「うん、菜緒と髪の色全然違うけど。でも、やっぱり雰囲気もそっくりだったの」

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