第19話 おかしな子

 一方、アゲハのこと。

 授業が終わったと同時に、子供たちは教室を出て散り散りになった。

 数人はアゲハのもとに集まって、

「花見さん!一緒にどこか行こう」「運動場行こうぜ!」「中庭でしょ」「…食堂」

「ミチュラム先生。この後授業とか大丈夫なんですか?」

「この子たちの次の授業はお昼からなので、今の時限は問題ないですね」

「いいな、食堂行こうぜ」「ちょっと早くない?」「早い方が、混んでない」

「じゃあ食堂に行きましょう花見さん!」

 とんとん拍子で決まり呆気にとられたが、アゲハ自身も

何があるのかもわからないし特に行きたいところもなかったので、

「食堂⁉見てみたい!一緒に連れてって!」


 食堂は初等部の校舎にはなく、中等部の校舎の隣に共通の食堂があるらしかった。初等部校舎の3階と中等部の2階は渡り廊下でつながっており、

主に初等部の学生と教師が行き来するのに使っているという。

 今アゲハのいる初等部の校舎はL字の形をしており、

その渡り廊下は丁度その曲がり角に近いところに架かっているらしかった。

 子供たちはみんなアゲハよりも先に廊下を進み、

「こっちこっち!」と先導してくれた。アゲハもその後に続いた。

 渡り廊下に続く分岐に差し掛かったところで、ふと廊下の先のに目を引かれた。子供たちはすでに渡り廊下を渡り切って見えなくなっていた。

 廊下の突き当りには古めかしい木枠のガラスの張った扉があった。

扉の先には額縁に入った地図と、そのすぐそばの机の上に

変な形の模型が宙に浮いているのが見えた。

 アゲハはとてもそれが気になり、気が付くと戸を開けてその目の前まで来ていた。

 地図には5つの大陸が名前とともに書かれており、

それらは数珠状に集まった形で描かれていた。

 地図の下部には、『世界地図 光王歴4712』と書かれてあった。

 

 アゲハが地図を見ていると、右の方から「あ!」という声が聞こえ、

その声の主が走って近づいてきた。

 アゲハが声に気づいた頃には、その子は傍に着いていた。

 目の前には、驚くほど白い肌と髪を持った子供が立っていた。服装はこの学校の制服を着ていることから、この学校の生徒であることはわかった。その傍らには、

白い服を着た大人が2人立っており、白い布で顔を隠していた。突然、

「お姉ちゃんも僕と同じ!」

 その子供が中性な声でそう言い、アゲハに抱き着いてきた。

「????」

 どうするべきかわからず、アゲハはそのままフリーズしてしまった。

しばらくすると子供はアゲハから離れ、手を取ってアゲハと目を合わせた。

 その瞳の色は、キラキラといろんな色を反射しており、

「お姉ちゃんはいろんな色に好かれてる!僕もお姉ちゃん大好き」

「いろんな色?あなたは…」

「……様、そろそろ」

「わかった!」

 その子は背を向けて歩き出したかと思うと、思い出したように振り返り、

「お姉ちゃんとはまた会える気がする!またね」


 教室を片付け終えたミチュラム先生は渡り廊下に向かっていると、

廊下の先でアゲハが呆然としているに気づき声をかけた。

「花見さん、どうかしましたか?」

「さっき変わった子に会いました。とても真っ白な…とにかく不思議な子」

「白い子供ですか…もしかして白い服を着た2人組も一緒にいましたか?」

「いました。顔は布で見えなかったです」

「それはとてもラッキーでしたね。その方たちはコアから来られた方々ですね」

「すみません、コア…?って何ですか」

 先生は腕時計を確認して、すこし表情が緩ませた。

「ちょうど世界地図もあることですし、お話しましょう」


「これが世界地図です。少し古いですが、だいたいはこの通りです。

この国で作られた地図ですので、水の国を含む大陸が12時の位置にあります。

そこから時計回りに、

木の国と土の国を含む大陸、金の国と鬼の国を含む大陸、光の国を含む大陸、

火の国を含む大陸の5つの大陸に

「?前は違ったんですか?」

「以前は6つ大陸があったことがわかっています。6つ目は…地中に取り込まれた

という風に考えられています」

「そんなことあるんですね」

「普通はそんなことありませんよ 笑 

かつては6つの大陸からなる丸い星でしたが、

土の女王の影響で地球は大きく形を変えられてしまったんです」


「先ほど言ったコアは…描かれていませんね。

今の地図には、ちゃんと内側の海の真ん中に描かれています」

「じゃあさっきの子は、そこから来たんですね」

「そのはずですね。もっとも、私達では確かめようもありませんが」

「どうしてですか?」

「彼らがどうやって移動しているかわからないんですよ。

いつの間にかいる、と言いますか…船も出ていないので。

コアを見たことがある人は出会ったことないですね。

それほど私達にとっては縁遠いところではありますね」


 机の上に浮いている模型を指して、

「そういえば、これなんですか?この浮いている」

「ああ、それが今の地球の形ですね」

「え!これ、地球なんですか?こんなに形に…」

「面白い形ですよね。パラシュート型…球面三角フラスコ型地球とも言われるモデルです。こんなものがハンマー投げをするように、太陽の周りを今も!ぐるぐると!

回っているとはとても信じがたいですよね!ですが我々の先人が生み出した衛星によって地球の観測にはかなりの精度が…と」

 アゲハが圧倒されているのに気づき、

「すみません、私の研究分野でしたので…つい」

 恥ずかしいのを隠すように咳払いをした。


 ふと、先生の言ったことを思い出して、

「そういえば、どうして先生はあの子に会えるのがラッキーだと言ったんですか?」

「今日が丁度、次の学校に移動される日だったからですね。

あの方々は1年間学校に在籍して、次の学校に移っているんです」

「え」

 じゃあ、どうしてまた会えるなんてあの子は言ったんだろう。



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