第18話 獣人(けものひと)
「さて、前置きが長くなったね。 ここからが獣人族、君たちの話だ」
次に起こったことは今から216年前のことだ。
偉大なるお方はあることで悩んでおられた。後継者の問題だ。建国の六華をはじめ、各国の王は地球崩壊の影響を見て以来、それを意識せざるを得なかった。
特に、ドラゴンであるランドルファン様にとっては。
「子を授かるのに必要なこと、それは相手がいることだね」
だが、世界中を探してもランドルファン様と同じ種族の者はいなかった。
彼のお方以外に同じ存在はいないという悲劇。
その事実がその信仰を高めることに繋がってしまったというのは、
とても皮肉で残酷な結末だ。
そしてもう1つ悲劇だったのが、彼のお方が人と恋をしてしまわれたことだ。
当然、子をなすことはできるはずもなかった。真実の愛をもってしても、
種族間の障害はここでも”繋がり”という幸福を妨げた。
そこでランドルファン様は、魔法で奇跡を生み出した。
「それが“コウノトリ”だ」
神はそれぞれ理に反する力を有している。ランドルファン様は、
種族間の理を越えて子をなす方法としてコウノトリを創造なさった。
「コウノトリは、どんな種族でもどんな身分でも使うことができる。
真実の愛をもってさえすれば、コウノトリが子を授けてくれる…ロマンチックだね」
「私もコウノトリが運んできてくれたそうよ。そうじゃなきゃ、
獣人なんかになってないんだけど。…親の顔さえ、もうわからない」
ぺトネが吐き捨てるように言った。重苦しい空気を断つように、
山猫は咳払いをしてから続けた。
こうして生まれたのが獣人族だ。だが、彼女の様子からもわかるように現状
獣人族はまともな生き方をできる種族ではない。
端的に言えば、差別されている。それはなぜか。
「獣人族は魔力を制御することで、人族にも獣族にもなることができる。
そして、はっきり言って獣族よりも人族の方がマシな暮らしができるんだ」
つまり、そうやって人族に紛れて暮らしていた獣人族がいたんだ。いっぱいね。
もし居づらくなったら、獣族として生きる選択もできた。だが1人、2人とそんな
暮らしをする者が見つかるにつれて、人族と獣族両者の不満は大きくなった。
「どんな奴でも自分が享受できないことをうらやみ、妬む。
獣人族は本当に多様で、種族が全く同じ親をもつ者は少なかったんだ。
早い話、いつまで経っても獣人族だけの国を作ることができなかった」
そして、コウノトリが生まれてからわずか40年。
人族を中心に大規模な獣人族狩りが行われた。一部の種族を除いて、酒を飲むと魔力制御ができなくなる、というのはずっと昔から知られた話だった。
だから、人族の奴らは所構わず酒を飲ませてまわったらしい。酒を断っている、
酒に弱いなんていうものは問答無用で拘束されたらしい。そして、殺された。
子供は?親を調べればわかる話だ。まだ、獣人も1世代目だったからね。
もちろん、殺された。ほんの100年前の話だ。未だにその差別意識を持つ人は多く、獣人族は未だにひっそりと暮らしている。
「いやはや、恐ろしい話だね」
「どこに行ってもろくでもないことはあるんじゃのう」
「だから私はミヨ、あなたを保護したのよ。感謝してよね」
山猫が腕時計を確認して、
「うん、いい時間だね。ぺトネのは今までたくさん手伝ってもらったし、
そろそろ安全なところに行ってもらっても大丈夫だね」
ミヨとぺトネの後ろにはいつの間にか客の獣族たちが立っていた。
「じゃあ、後は頼むよ」
山猫は食器を片付けながらそう言った。
ミヨとぺトネは後ろの奴らからカウンターに顔を押し付けられ、手足を拘束された。
「山猫さん‼どういうことなの⁉」
「やっぱり、そうじゃろうな」
「お、ミヨさんはわかってたんだね。ぺトネは賢いのに…経験がまだまだ
足りなかったようだね。そういう素直なところが気に入ってたんだけどね」
「人身売買、じゃろう?山猫」
「世の中には物好きな
別に私は獣人が嫌いじゃないよ。これもビジネスだ
「もう一つ言っておくと、差別主義者は”じゅうじん”じゃなく、”けものひと”
って呼ぶからね。どっちつかずのけものひと、てね。何事も経験だね!」
「山猫のアニキ!早いとこ持って行っちまいましょうぜ」
「早く終わらせて飯いかせて下せぇ」
後の獣族がガヤガヤと言う。
「そんな…みんな信じてたのに…」
「なあ、もう良いかのう」
黒い煙と共にミヨは猫となり、拘束をすり抜けた。
続いて、黒い煙と共に現れたのは黒い耳としっぽの生えた、上半身裸の大男だった!
「素晴らしい…やはり転生者はぶっ飛んでいるね!」
まずぺトネを拘束してた奴を引きはがし、壁に投げつけた。咄嗟の出来事に、
壁にたたきつけられた本人は理解が追い付いていなかった。
「うがああああああ」
他の獣族はミヨを標的に切り替え、肉を引きちぎろうとミヨにかみついた。が、
ミヨはびくともせずまったく痛がる様子も見せなかった。
右腕に嚙みついた獣族をミヨは掴み、地面にたたきつけた。もう1人左肩に噛みついた獣族を掴み、山猫の方に投げつけた。山猫は軽々と避け、
「おっと…ぺトネ、君が連れてきたのは獣人族じゃないみたいだね。
まったく異なる体形の人間になれるなんてありえないことだ。
猫も野生種さながらのサイズだ。だが、いい収穫だ!」
獣族の足を掴み、まるで布切れを振り回すようにほかの獣族を殴りつけていく。
「待っておれ わしが直々に捻りつぶす」
いつもの声とは打って変わり、低く冷たい声が響く。
「残念だけど、それはありえないね。今回の収穫は主に君だ。
またどこかで会おう。それ、では!」
山猫が裏の戸から出ていくのが見え、
ミヨは追おうとしたが残りの獣族が手負いながらも行く手を塞いだ。
「ここは…ゲホッ通さねぇ」「山猫さんはオレらの要だ」「嚙みちぎってやる」
「ええい邪魔くさい!
殴り飛ばしながら戸に着いた頃には、立っている獣族は一人も残っていなかった。ミヨが戸を開けると、そこには薄暗い地下通路があった。通路には獣族がまばらに歩いており、この店のような扉がずらりと並んでいた。完全に見失った。
「逃げられたようだな」
戸を閉めて、店の中で腰を抜かしていたぺトネのもとに近づいた。
「大丈夫か、ぺトネ」
「あ、あな、あなたミヨなの?ほんとに⁇」
黒い煙と共に元の少女の姿に戻った。服装も制服のままだ。
「たぶん どっちでもないんじゃろうな、知らんが」
「のう、ぺトネよ。要は耳としっぽを隠しといた方が良いってことなんじゃな?」
呆気にとられつつもミヨに肩を借りて立ち上がった。少し休ませてと言い、カウンター席についた。そして、ぺトネはミヨの方を向いてうなずいた。
「そう…あなたがどんなに強くても、それは隠すべきよ。それがこの世界の」
「常識なんじゃろう?さすがに伝わったわ」
ミヨが首元とスカートに黒い煙を纏うと、元からあったように
制服にフードが現れ、スカートの丈も長くなった。フードを被って、
「ひとまず、これでしのぐかのう」
ふと、表の扉からの音が静かになり、ノック音が店に鳴り響いた。
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