第16話 獣族(けものぞく) 前編

「なにもんじゃおぬし⁉」

「そんなのいいから早くこれかぶって!耳としっぽを出したまま出歩くなんて…」

 フードを被った人から大きな布を被せられた。声からして少女であるようだ。

「行きましょう。付いてきて」

 ミヨは手を引かれ少女と歩き出した。

「ちょっと待て!わしそんなに変な恰好じゃったか?」

「格好だけじゃないわよ…歩いているところも非常識極まりないわ」

 こっちと言い街を歩き続ける。

「おぬし名はなんというんじゃ?」

「私はぺトネ。ペトネチェンスカよ」

「わしはミヨじゃ。ぺトネよ、わしどこに連れてかれとるんじゃ?」

 ぺトネはそのまま無言で歩き続ける。横顔から少し緊張しているように見えた。

「のう…もう少し話をしてくれんかのう?」

「…着いた。ここよ。ここなら…安心」

 立ち止まったところでぺトネはフードをとった。白い髪の人間の少女であることがわかった。吊り下げ看板には“やまねこ”と書かれてあった。着いたというのは、

どうやらこのお店のことだったらしい。

 確かに寂れかけのアーケードよりは明るく、人通りもあった。店の扉には、

”準備中”と書かれてあったが、ぺトネは構わず戸を開けて中へ入った。


「いらっしゃい、ぺトネと…おや、を連れてきてくれたんだね」

 カウンターの方から声をかけてきたのは、2足で立っている猫だった。

店内を見渡すと、カウンターと開けたラウンジがあった。

ラウンジには机だけがあり、立ち飲み酒場のようになっていた。そして、そこにいるのは全員動物で、2足だけで立っていた。

「山猫さん!この子はミヨ。この子安全なところに連れて行ってあげて!」

「ちょっと待つんじゃ!何のことか知らんが、勝手に決められても困る」

 山猫と呼ばれた猫は食器を拭く手を止めて、ミヨをまじまじと見る。

「耳としっぽが…不全症なのかな。ミヨさんはどこ出身?」

「わしは日本からじゃ。じゃから、この国のルールなんぞ知らん」

「ルールじゃないわよ…よ。見て」

 ぺトネは呆れたようにミヨに言い、目を閉じた。

その瞬間、ふさふさとした耳としっぽが生えてきた。

「私も獣人族。オオカミの獣人よ。ここまで言ってわからない?」

「何を言いたいんか全然わからん」

 今度は山猫もぺトネと見合わせて驚いた。そして山猫は少し考えて、1つ思いついたようにして尋ねてきた。

「あなた、もしかして昨日やって来たっていう転生者じゃないかい?」

「そうらしいのう」

 山猫が納得したように頷きながら、

「そうかそうか。じゃあ獣人族について、少し話そうか。お節介かもしれないけど、大切なことなんだ。この世界ではね。ささ、立ち話もなんだからどうぞ座って」

 席に座るよう進めながら、こう続ける。

「少しばかし、昔話をば」


 事の発端は728年前、流行り病から始まった。

地球の形がまだ丸かった頃のことさ。全世界で病が波及し、その影響は国王も例外ではなかった。元来、土の女王 梦土丹は病弱であったため、

すぐに感染しあれよあれよと言わぬ間に、崩御されてしまわれた。

「王っていうのはとても特別な存在なんだ。なんでかわかるかい?」

「いや、サッパリじゃな」

「王は神とともにある存在なの。だから王は、特に建国の六華の王は存在そのものがの源になってるのよ」

「その王様がなくなるということは…世界のバランスが崩れることを意味する。

供給が止まるからね。人の身体を借りてる以上死があるのは仕方のないことだけど…

問題は、崩御された王が土の女王様だったってことだ」

 王が崩御されると、これは土の王に限ったことじゃないが、一刻も早く後継者を用意しなければならないんだ。その期限は5日。それ以上続くと世界は滅ぶ、とされている。

「まあ確かめようのないことじゃな。世界が滅ぶなぞ」

 継承者になれるのは適性をもつ者だが、大抵はその王の子供が継承する。

継承された者は、一生をその神の人格と過ごすことになる。

「だが、土の王はこだわり(面食い)のせいもあって子供がいなかった。

それ以前から後継者については問題視されてたらしい。

なにせ土の神は大地、星動、重力。あろうことか3つもものの根源を担ってたんだ」

 それが制御されないも同然になった結果……地球の形が崩れた。

「丸かったのが平たくなったの」

「3日間、天地が裏返ったり地面がドンッと沈んだり…ひどいものだったそうだ。

4日目になっても後継者が現れなかったから、最終手段としてコアの人造人間?

よくわからないがが使われた」

「待て。コアってなんじゃ?というかこの話、わしに関係あるんか⁇」

「コアはこの世界の中心にある施設、らしい。王が集まったりしているらしいが、そんな時はたいてい碌なことは起こってないと聞く」

「関係あるにきまってるでしょ?だって、あなたも獣人族なんだから」


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