番外 朝ノ風呂
アイリスはベッドの隣にあるもう一方の扉へ2人を案内した。中に入ると、洗面台を伴った広めの部屋があった。風呂に行くと言っていたことから、ここが脱衣所であることは予想できた。部屋には左側に手前と奥計2つ扉があり、奥の扉は曇りガラスとなっていた。また、右奥にはもう一つスライド式の扉があり、それも曇りガラスとなっていた。
「なんじゃ、存外普通な作りじゃのう」
「こちらは脱衣所でございます。衣服は洗濯させていただきますので、そちらのかごへお願いいたします」
アイリスがかごの場所を示す。続けて、
「入って左奥の扉にございますのが、ナツメの間に備えられておりますお風呂でございます。ですが、今回案内いたしますのは右奥の扉の方でございます」
「この先に大浴場があるんですか?アイリスさん」
「その通りでございます、花見様」
扉を開けると、洞窟の様な広い空間があった。内部はかなり整備されていて、きれいに磨かれた白い石が全体を照り返しているほどだった。
「ええ⁉部屋の中にこんな広いお風呂があるの‼」
「わたくしは王城に来てまだ日が浅い方ではございますが、客間ごとにこのような大浴場があり、それぞれコンセプトが異なるそうです」
「広すぎて奥が見えんのう…」
湯船は段々状に奥まで続いており、湯煙も相まって奥まで見えなかった。
身体を洗ってから、手初めに一番近い湯船に入った。一番広い湯船である。
「ふう…落ち着く。でも意外と青いお風呂って見たことないね」
「ナツメの間は海をコンセプトとしております。湯船ごとに海の名前が付けられております」
「じゃあ、ここはなんて海になるんじゃ?」
「青い海、青海でございます」
「見て!緑の湯」
「緑海でございますね」
「赤い湯もあるのう」
「そちらは紅海でございますね」
「しゅわしゅわする~」
「あっつ‼ちゅーかヒリヒリじゃぞこの湯」
「黒いお湯もあるね!ちょっと入ってみたいかも」
「黒海でございますね。かなり深いのでご注意ください」
そう言われたため、アゲハは恐る恐る湯に足を入れた。
「私泳げないから、そのときはお願い!」
「なのに入るんじゃのう…」
「意外と…ほっ…浅い…かも」
「花見様!」「アゲハ⁉」
アイリスは黒海に入ってアゲハを探し始めた。ミヨも泳げないため、湯船のふちに沿ってアゲハを探し始めた。すると、すぐにアゲハが水面から顔を出した。
「アゲハ、おぬし泳げぬのじゃなかったのか⁈」
「お湯の中見てみて!魚みたいなのいるよ」
アイリスとミヨは湯の中に顔を入れてアゲハの方を見てみると、アゲハは巨大な魚の様なものの上に立っていた。
「これは…ルオフィア様の魔法!」
「魔法⁉これも魔法なの⁇」
「水に命を与える魔法でございます。ルオフィア様がナツメの間を気に入られている理由がわかりました…」
「何でもありじゃな、魔法とは」
「いえ…この魔法はルオフィア様しか使うことができないとされております」
「2人も来て!多分大丈夫」
アイリス、すこし躊躇しつつもミヨも黒海の深いところにやってきた。
「うぼ…溺れる!やっぱダメじゃ‼」
沈みかけたところでミヨの足元にも水の魚がやってきた。
「なんでこんな焦らしてくるんじゃ!この魚」
「わたくしには来てくれません。どうしてでしょう」
「うーん……あ!多分だけど溺れてないと助けられない?とか」
「なるほど…水で生まれたから溺れるということがわからないのかもしれません。試してみます」
湯に潜りわざと空気を吐き出すと、アイリスのもとにも水の魚がやってきた。
「…ちと思ったんじゃが、おぬしも入って大丈夫なんかの?おぬし従者なんじゃろう」
「…わたくしは、問題ありません。メイドと言いましても、本家と王城との関係性を維持するためのものでございますので」
「え!じゃあ私と友達になってもいいってこと⁉」
「アゲハおぬし…」
「花見様がよろしければ…」
「やった!じゃあアイリスって呼ぶね。私のこともアゲハって呼んでいいからね‼」
「…かしこまりました、アゲハ様」
「アイリス様方!そろそろお上がりください‼お食事のご用意ができましてよ」
入り口のあたりから大きな声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます