第9話 王城へ

「近衛兵が来たぞー!」「おせえなぁ」「何やってんだよ」

 人だかりから声がして、鎧を着た兵士が五人くらい広場に入ってきた。その内の二人は広場の捜査をし始めた。どうやら魔法の範囲を調べているらしく、チョークの様なもので凍っている部分に印をつけている様だ。

 残りの三人の中から隊長らしき人物がアゲハの方に近づき、

「魔力強度レベル3相当の魔力が検出された。同行願う」

と淡々と言ったが、アゲハは気を失ってうつぶせの状態でいた。が、特に気にした様子もなく、あとの二人が手錠をかけ始めた。

 制限網の外からミヨが声を荒げて言う。

「ちょっと待て!なんでアゲハを連れてくんじゃ‼」

 隊長は担架たんかの用意をさせながら答える。

「公衆の場での魔力行使は禁じられている。というか誰だ君は」

「わしはその娘の連れじゃ!保護者と言ってもいい」

 保護者…かとつぶやきながらミヨを一瞥した。少し考えてから、

「ならば同行願おう」

と言った。部下の一人が耳打ちで

「よろしいのですか?ルモア隊長」

と尋ねたが、隊長は

「構わん。どのみち未成年の犯行だ。いずれ保護監督責任を問わねばなるまい」

と言ったため、その兵士は了解と答え、ミヨを護送車に案内した。

 

 ミヨは案内している兵士についていきながら尋ねた。

「これからどこに行くんじゃ?」

「王城に行くこととなります」

「どうして王城まで行かんとならんのじゃ?」

 兵士はミヨをちらりと見てバッジを付けていることに気づいた。

「バッジ…あなたたちは国外の方だったんですね。それならば知らないのも無理はないです。これから向かうのは近衛詰所つめしょ王城本庁になります」

 ミヨはまだピンとこないようで、

「だから、なんで王城なんじゃ?」

「ああ、そうでした。なんでかと言われますと…ここから一番近いからですかね」


 捜査を行っていた二人の兵士は隊長のもとに行き、報告をする。

「氷属性による魔法。噴水、路面に一部損壊あり。けが人は確認されませんでした」

と報告した。隊長は

「ご苦労。容疑者はすでに無力化拘束を完了してある。」

と言い、全員がそろったところで護送車に乗り込んだ。

 こうして、二人は王城に連行された。


 王城の門に辿り着いたところで、門の目の前に三人の人影があった。その内の一人が手を振りながら、

「はい、お疲れちゃんルモア隊長。あとはこっちでその二人預かるから手錠とっちゃって、ホラ」

 護送していた兵士は、声の主に促されてそれに従った。

「ミドラ…どういうことだ、これはオレの領分のはずだろ」

 ルモア・メディスは不満そうにミドラに言った。

「普通ならな。今回は例の…ルオフィア様の予言関係のやつだ。人も付けて監視しといたんだぜ?」

 それを聞いてルモアは怒り交じりにミドラの胸ぐらをつかむ。

「あのなあ!それ、あの女が魔法使うの止めることできたってことじゃねえかよ。今回被害者は出なかったがよ、町に損害出てんだよ。…なんで止めなかったんだよ?」

「ごめんごめん。凍るとこまでが予言だったからさ。それに、もし予言と違っててもどのみちこっちまで来てただろ。結果オーライってやつよ」

 事も無げに答えるミドラに、ルモアが手を放して諭すように言う。

「…今回の被害は魔法の発現が原因だった。発現段階の魔法は属性がわからねえから対処できねえんだよ…あんたの娘の件、忘れたわけじゃねえだろ…?」

「…少し配慮が足りなかった。すまん」


 ミドラは連れ添っていた二人の部下とともに護送車に乗り、

「悪い!用が終わったら返すから車借りるわ」

と言い王城玄関付近まで護送車を走らせた。


 王城玄関前には、従者らしき人が数人立っており、

「1人、気を失っている。丁重に…」

とミドラが言うや否や、護送車に入って手早く車輪付きベッドにアゲハを移して王城内に入っていった。ミヨも小走りでそれについて行った。

 ミヨは、ある部屋の扉の前で従者に

「こちらのお部屋をお使いください」

と言われ、部屋に案内された。部屋は巨大な天蓋付きベッドが2つあり、シャンデリア様の照明が優しい光を放っている。クローゼットに、フカフカのソファ、部屋の全体を映すほど大きな鏡を持った化粧台、天井に届かんばかりの高いガラス窓が備わっていた。部屋の所々にはバッジと同じアジサイの印が入っていた。

 アゲハは手前のベッドに移された。従者が、

「しばらくおくつろぎくださいませ」

と言い、部屋を出て行った。


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