第7話 食堂で

 アゲハが食堂の扉を開けた。店はカウンターのある奥行きある食堂だった。二人はすぐにお金の事情を言えるよう、カウンター席に座った。奥の扉から体のがっちりした女性が出てきて、

「いらっしゃい。食べたいもんは決まったかい?」

と訊かれた。アゲハはすぐさま

「すみません、私達はこの国のお金を持っていないんです。私の国のお金ですが、これでなにかご飯を頂けないでしょうか?」

と正直に言った。その女店主はしばしあごを手で撫でた後、こう尋ねた。

「あんたたちは、学生かい?」

 二人は首をかしげたが、アゲハはうなずいた。ミヨが答えずにいたため、店主は

「そっちの猫耳の子も学生かい?」

 と尋ねた。少し渋ったが、ミヨは猫に変身して

「わしは猫じゃ」

 と答えた。店主は心底驚いた風に見え、

「参ったねえ、初めて見たよ。長生きするもんだねぇ!」

 と言って、それに続けて

「だいだいわかったよ。今飯作ってくるから待ってな!」

と言い、目の前の調理場で調理し始めた。いつの間にかミヨは人の姿に戻っていた。


 10分くらいしてオムレツの様な食べ物とスープが出てきた。

「はいオムレー2人前‼」

 店主が2人に食べるよう手で促した。

「「いただきます」」

と言い手を合わせた。スプーンもフォークもあり、二人が食にありつくのには苦労しなかった。オムレーと言われた食べ物の中には野菜がゴロッと入っており、ボリューム満点だった。

 2人が食べる様子を、店員の女性は眩しそうに眺めていた。


 二人とも食べ終わり、店主にお金を渡そうとしたが、

「ああ、いいのいいの。たまに金のない学生にはタダで飯を恵んでやってんのよ。

それに…猫から金は取れないしね!」

と笑顔で言った。

 店主は店の外まで二人を見送りに来た。二人は頭を下げて、

「「ごちそうさまでした」」

と言った。外はすっかり夜になっていた。

 店主は二人に、

「あんたたち、お金がないんだろう。今夜はうちに泊まっていきな。ガキどもがうるさいかもしれないけど、二人くらいなら大歓迎だよ」

 手をり合わせながら、それに、と続けた。

「ここの夜はかなり冷える。外で寝るなんて論外だね」

 アゲハが両手で腕をさすりながら、

「確かにここ、外にいると寒いですね。風が冷たいというか」

「確かにその服装じゃ心許無いだろうねぇ」

 ふと、異常なほど震えるアゲハの様子に違和感を覚えたミヨが、

「アゲハ、具合でも悪いのか」

と背中をさすろうとするが、尋常じゃなく体が冷たい。ミヨは咄嗟とっさに手を引いた。アゲハがその場で膝をついた。

「寒い…」

 店主が近くに駆け寄り、

「大丈夫かい⁉とにかく店に。立てるかい?」

とミヨと同様、焦りの表情を見せた。

「寒い…さ…」

 次の瞬間、アゲハの背中から光が差し始めた。店主は

「まさか…そんなことって」

と驚きを隠せない様子である。ミヨは、

「いったい何が起こっておるんじゃ!」

それに答えるように、店主が静かに言った。

「彼女、魔法が発現するよ」


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