第4話 てふを知る

 再び、ミヨが少女に戻ってからアゲハに訊いた。

「そろそろアゲハよ。おぬしのことについても聞いてよいか?」

「うん!何でも聞いて」

「あの時、おぬしは何を掴んだんじゃ?掴めそうなものなぞ何もなかったぞ」

 思っていたのと違う質問に驚いたようだが、アゲハは次のように答えた。

「うーん、多分だけど…このボヤーってしてるのじゃないかな」

 アゲハも自信が持てないようで、恐る恐るで手元の“何か”に触れた。

「これ…とは?何もないではないか」

「ミヨには見えないの?この四角い薄い色の」

 アゲハが両手で“何か”を引っ張って見せた。

「パントマイムか?」

「違うよ!色が薄いからわからなかったけど、よく見るとこれそこら中にあるよ」

「ふむ…不思議なものもあるんじゃのう」

  

「あ!ミヨの頭にも乗ってる」アゲハが無邪気に言った。

「って言うとる場合か‼そんな得体の知れんもの、早うとって!」

 ミヤが慌てて頭上を払った。


「大丈夫そうじゃない?私も意識して見ないと見えないし」

 ミヤの頭上に手を出しながら、アゲハが続けて言った。

さわろうとしないとさわれない」

「なんじゃか…空気みたいじゃな!空気は見えぬか、ワハハ」

 ミヨは冗談のつもりだったがアゲハはそれに納得したようで、

「それ!この四角いの、“見える空気”って呼ぶことにする‼」

 命名した“見える空気“をぎゅうぎゅう引っ張りながらそう言った。


 夕空のあかね色も終わりに差し掛かっていて、空には星も見え始めていた。

 ふと、アゲハは持っていたカバンがないことに気づいた。何かないか探すと、スカートのポケットにスマホと財布だけが入っていた。スマホの時刻を確認すると、

6時03分と表示されていた。

「ここ、どこなんだろう?電波届いてないし…」

 急に不安になったようで、アゲハが立ち上がってあたりをキョロキョロしだした。

「とりあえずは人のおるところまで行ってみるかのう。わしはどこでも生きれるが…おぬしが宿にありつけるまではともに行こう」

 ミヨが安心させるようにアゲハに言った。続けて、

「とりあえずこの建物に行ってみようかのう、アゲハ」

目の前の巨大な建物を指しながらミヨが言った。アゲハはコクリとうなずいた。

 二人は、入り口を探すために建物のまわりを歩くことにした。建物の周りは水に囲まれており、二人が落ちた滝の他にも複数の滝が上から流れ落ちていた。建物は異常なほどに大きく、むしろ城塞都市といった風だった。

 

 ようやく建物の入り口に辿り着いた。二人はその門で、いかにも門番といった風の制服を着た男二人と対峙した。左に立っていた門番の男が、

「ようこそ!水と魔法の聖地 ミストリアへ」

決まり文句と言わんばかりにハキハキ、元気にそう言った。


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