マッサージおじさん

 処女喪失から一年後、やはりセックスを諦めきれなかった私は、女性向け風俗を利用しようと決意した。進まない卒論、気が重い教育実習、社会に出ることへの恐怖、その他もろもろでストレスが溜まりまくり、吹っ切れたというか。正直相手は誰でもよかったんだけど、まだ半分くらい処女みたいなもんだったから本当にちゃんと貫通しておきたくて、その道のプロにお願いしよう!というしょーもない思い付きがきっかけだった。

 当時はまだ今ほど大っぴらにやってる女風は少なくて、東京大阪などにチェーン店(という言い方で正しいかは分からないが)があるくらいで、他はマッサージの延長でみたいな個人でやってる怪しげなとこがちらほらと。私の住んでいる田舎には後者のお店しかなかったので、いくつか吟味した結果ホームページが一番ちゃんとしていて本人のプロフィールも詳しく載っていたところに決めた。あとなぜか学割もあったし。


 街中のビジホなのかラブホなのか曖昧なホテルで待ち合わせだった。ぱっと見ちょっと堺雅人に似てた。確か結構なおじさん(20くらい年上だった)で、死ぬほど緊張してたし何も分からんから全部お任せします!って感じにした。

 普通のオイルマッサージからだんだんきわどいところを触られて、その流れでセックスするっていう多分ありがちなやつ。特に変わったことはなく、普通に致して終わった。マッサージの方は気持ちよかったんだけど、セックスは気持ちいいより痛いが勝ってて、なんかよく分からんかった。けどこういう状況に置かれていることに興奮はした。すごい濡れてるねと言われて、そこで初めて自分が濡れやすい体質だと知った。普通の人はこんな風にならんのか…。

 ただ終わった直後マジで死にたくなった。虚無感にまみれて家に帰ってヤケ酒するくらいには。酔っぱらった頭でなんでこんな死にたくなってるのか考えて、おじさんにクソ長文ラインを送るという暴挙に出た。その時のやり取りが発掘されたので下に抜粋しておく。


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作者:

今日はありがとうございました。

後からこういう話をするのもなんですが、今回性感マッサージをお願いしたのは「自分が女性として扱われることが平気かどうか」ということを確かめたかったからです。先程話したように私は自分のことを3割くらい男性だと思っていて、他人から女性として見られる・扱われることが嫌でした。もしかしたら、全く自分を知らない人だったら大丈夫かもしれない、と思ったのですが、結果として知らない人も含めて女性として扱われることが受け入れられませんでした。

いわゆる性同一性障害、トランスジェンダーなのかと思われたのかもしれませんが、自分の体が女性でありそのことを受け入 れてはいるので、今のところそうではないと思っています。女性扱いは嫌だけどセックスはしたい、と思いセフレを探すことをまず考えました。ただ半分処女だったので初めてを適当な男性と済ますことには不安があり、その道のプロ(?)にお願いしようと思った、というのがもう一つの理由でもありました。

誰かに話したかったのですが、誰に言えばいいか分からずぶちまけてしまいました。 終わってからよく分からない悔しさや悲しさに襲われて凹んでしまったんですが、ちゃんと気持ちよかったし人生で一番興奮しました。いざ送ったら思ったより長くて我ながら引きました、すみません。


おじさん:

体は女かなと思ったけどね

悲しさや悔しさはなんだろうね一。女として抱かれたことが悔しかったんでしょうかね。


作者:

そうだと思います。心に反して女らしい体であることへの悲しさ、男の体でないことへの悔しさ、だと思ってます。胸とかいらないです。


おじさん:

でも性転換する度胸はないんだよね


作者:

度胸というか、自分で自分に対しては女性だと思う気持ちの方が強いので今の体でもいいんですが、人から女として見られるんならこんな体じゃなければ良かったと思います。


おじさん:

どんな人でもその人の中に男性性と女性性の両方を持ってると思いますよ。僕も中性的なところがあるしね。


作者:

そうかもしれません。ただ私の場合それが恋愛とかセックスとかに絡んでくるので、 ややこしくなってる気がします。


おじさん:

今の思考で普通の男の子と恋愛しようとしてるの?


作者:

自分で性別を定義できないうちは無理だと思うので諦めてます。 相手がヘテロの男性だとしたら、その人が望むような彼女にはなれないので。


おじさん:

自分が何者かわからないって辛いなぁー

今はわかっていないというだけで統計学的には何らかのグループにカテゴライズされると思うんだけどね


作者:

今はもう無理にカテゴライズする必要もないしと思ってます。一応Xジェンダーに該当するのかな、とふんわり考えてますが。


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 私の意味わからんクソ長文に真面目に答えてくれたのは大変ありがたかったです。ちなみにこのおじさんとは、またお願いしようかと思ったこともあったけど、結局この1回きりだった。


 この2度目の処女喪失()を経て、私は今度こそセックスは無理だと諦めるかと思いきや、逆に振り切った。何回も回数重ねれば、この経験も大したことないと思えるようになるんじゃない?何回もあるうちの失敗の一つと思えればいいんじゃない?と。完全に思考回路どうかしてるんだよなあ…。この数日後、私は古式ゆかしき出会い系サイトを始めることになる。

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