第4話
◆◇◆◇◆◇
「おーい、康太郎!」
「こんな大切な日に寝坊かよ、リーダー」
「ほら皆んな、早く電車乗らないと! 康太郎も急いで!」
Wikipediaに書かれていたことは半分合ってて、半分間違っている。
俺らが中学三年生の六月に活動休止したのは受験のためだった。
別に俺らは頭が良かったわけじゃない。
小学生の頃から楽器バカだった奴らの頭が良くないのは想像に難くないと思う。
だからこそ、俺たちは活動休止を余儀なくされた。
「これから三年間この電車で通うことになるのかな!?」
「……なに電車なんかで興奮してんだ」
「まあまあ、電車通学ってのも高校生活の醍醐味だよ」
でも、俺らには目標があった。
その中でも三人は
神奈川県立長谷高校。
この年の全国高等学校軽音楽コンテストで最優秀賞バンドを輩出した、屈指の軽音楽強豪校。
神奈川の実力者が集うと呼ばれる県外でも有名な高校だ。
そんな有名な高校が地元にあるなんて知れば、そこを目指さざるを得ないのが俺たちバンドマンの
ただ、一つ問題があった。
長谷高校は県内で五本の指に入るほどの進学校であった。
どれだけ楽器が上手かろうが、頭が良くないと入れないのである。
正直、俺は高校の部活に興味がなかった。
今あるネットでの知名度を活かせば、高校在学中にデビューも目指せる位置だった。
そもそも現実的に全員合格を見込めるレベルの高校でもない。
他の無難な高校に入学しつつ外部でバンド活動を続ける方が俺らの為だと、そう思っていた。
しかし、メンバーはその意見を飲むことはなかった。
「でもさ、ここまで一番大変だったのは勉強じゃないよね」
「ああ、康太郎の説得の方が大変だった」
「康太郎の唯一の欠点と言えば、その頑固なところだよね」
三人は俺を説得した。
元々出来上がっている環境で活動を続けた方が良いと。
高校の部活動をやりながらデビューした例もあると。
知らなかった。
三人は本気で、長谷高校を目指していたんだ。
その時はちょっと、自己中になりすぎていたかと反省している。
だから俺ら四人は長谷高校を目指した。
四人で、バンドを続けるために。
◇◆◇◆◇◆
『…………不合格?』
俺は受験に落ちた。
スマホの画面に映し出された『不合格』の文字を、黙って見る事しかできなかった。
口が塞がらない。
落ちるだなんて思ってもいなかった。
手応えだって、そんなに悪くなかったのに。
俺は、この程度だったのだろうか。
「受かったよ!」
「今見た。受かった」
「僕も受かった! 康太郎はって、あいつは余裕だろうな」
合否の画面を開いたまま、上に通知が流れてくる。
ああ、良かった。皆は受かってるみたいで。
良かった、のか。
分からない。
何で落ちたのか。
何だろう、熱量だろうか。
だってそうとしか考えられない。
模試は三人の誰よりも判定が良く、元々の学力も既に長谷高以上の高校は狙えるものだった。
俺は心の底から、長谷高に行きたかったのだろうか。
三人に有って、俺に無いもの。
……謝らないと。
四人で行こうって、約束してたのに。
◇◆◇◆◇◆
『外部でやろうって……それじゃあお前らが長谷高目指した意味がないだろ!?』
合否から一週間。
俺は三人に呼び出された。
メンバーを一人欠いた、NoneTypeとしての活動の相談だった。
本当は自分から相談するべきだっただろう。
落ちたのは自分なのだから。
でも三人は、俺に寄り添った提案をした。
「長谷高校には入学する。でも、軽音楽部には入らない」
そんな提案をされて、俺は深刻な表情をせざるを得なかった。
ただ三人は対照的に、吹っ切れた様子だった。
「こうなったもんは仕方ないじゃん」
「責めてる気はねえよ。四人でなきゃ、意味がない」
「うん、僕ら四人だからNoneTypeでいられるんだ」
三人は俺を必要とした。
それは、作詞も作曲も俺がやってるのだから必要とされるのは当たり前かもしれない。
でも三人の気持ちはそこではないと思った。
俺を、道永康太郎を一人の友達として必要としてくれた。
切っても切り離せない、そんな存在として。
恵まれた仲間を前にして、視界が滲む。
こんなに、こんなに良い奴らと俺はまだバンドを続けていいのだろうか。
彼らはその問いに迷いもなく賛成するだろう。
なら、俺もその意気に応えなければならない。
『……ありがとう、みんな』
絆は逆境を乗り越えられる、そんな気がした。
俺は、救われた。
しかし、高校の入学式を境に三人の誰とも連絡がつかなくなった。
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