第3話
中庭の木陰にある一つのベンチ。
いつもなら誰かしら座っているのだが、今日はたまたま空席だった。
周りに他の生徒も見当たらないのでここに座ることにする。
「百瀬さん、どうぞ」
「あっ、失礼します」
俺ら二人はそれぞれ弁当箱を持って横に座る。
ただ、食べ始めることは出来ない。
なんか、その、食事する雰囲気ではない。
快晴の空から降り注ぐ日差しは木によって遮られ、心地よい風が吹いているだけまだこの場の空気は保たれている。
「あのさ、道永くん」
「は、はい。何でしょう」
色々考えているままに返事をする。
「私のこと、もしかして苦手?」
「何でそう思うんですか?」
「うーん、なんか楽しそうに見えないから……かな?」
足をぶらぶらさせながら彼女はそう言った。
楽しそうに見えない、か。
それは別に彼女だからという訳ではない。
俺は常に他人からは楽しくなさそうに見えるだろう。
実際、楽しくないのも事実である。
「百瀬さんだから、という訳じゃないです。でもこの日常が楽しいとは思いません」
「え、じゃあもう決まりじゃん!」
彼女はそう言って、おもむろに立ち上がる。
「私とバンド組んで、一緒に青春すればきっと楽しくなるよ!」
手を後ろで組んで胸を張り、どこから湧いてくるか分からない自信を背にして彼女はそう言った。
「その、青春ってのは義務じゃないですよね」
「何それツッコミ待ち? 青春は義務とか権利とかの問題じゃないよ」
「……そうですか」
青春は、義務でも権利でもない。
彼女はサラッと、特に深い理由もなくそう言ったのだろうか。
だとしても、そうじゃなくても。
何か今の言葉は聞き流すことが出来なかった。
無視できるなら、どうでもいいものなら聞き流して受け流す。
ずっとそうして生きてきたのに、今だけは。
「……で、話してくれるんだっけ。NoneTypeのこと」
百瀬さんはベンチに座り直して、僕にそう問いかけた。
(言わないとダメなやつか……)
自分でこの場に誘っておいて、心の準備は正直出来ていない。
行き場のない手は既に汗でぐっしょり。
でも覚悟を決める。
バレないように小さく深呼吸をし、百瀬さんの方に体を向ける。
「身内のつまんない話ですよ」
「はい、聞かせてください」
曇りないその目を見ながら、俺は話し始めた。
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