第5話 とっても素直な後輩ちゃん
屋外。耳元から声がする。
「しぇんぱ~い!」
「な~にため息ついてるんですか~! その、めんどーなのに絡まれたなーみたいな態度やめてくだしゃいよ~! 失礼です! うったえますよ~!」
「わたし裁判所の判決がでました! ゆうざいです! ばつとしてこのままわたしをおんぶしてウチまでおくりとどけてください! それでゆるしてあげま~す!」
「やっぱりこうなったか、ってなんですか~。どうなったっていうんです? わたしはいつもとかわりませんよ~」
後輩がセンパイの背にさらに体を寄せる。右耳元から声が聞こえる。
「えへへ~。センパイの背中、おっきくて、あったかくて、それに……センパイのにおい、安心します」
「あついって、感想それだけですか~? かわいい後輩とこんなに密着できてるんですよ~? 役得くらいはおもってくださいよ~」
「何度もやってるからいまさら気にしない? そんなわけないじゃないですか~。初めてですよ、センパイにおんぶしてもらうのなんて~」
「わたしが忘れてるっていうんですか? センパイにこんなことしてもらって、忘れるわけないじゃないですか~」
「でも確かにちょっとあついですね~。なにか冷たいものでもたべたくなってきました」
「……耳たぶおいしそ~」
「――あむっ」
後輩、センパイの耳たぶを咥える。
「わっ! ……ちょっと、やめてください、おちちゃうじゃないですか~」
「ふふ~。センパイ、やっぱり耳がよわいんですね~。いいこと知っちゃいました~」
「……えへへ~、やっぱりたのしいなー。センパイといるの」
「センパイが卒業しちゃって、寂しくて……」
「大学たのしいですよ。でもやっぱり、センパイがいないとなにかものたりなくて……」
「就職しても引っこさないでいてくれたの、すごく嬉しかったんです。いつでもセンパイに会いにいけるっておもったから」
「でも、学生と社会人で生活もちがうし……距離はちかいはずなのに、会いにいくのに勇気が必要で……」
「今日だって、すごく頑張ったんですよ。急におしかけちゃったのは……すみません」
「……ずっとこうして、いっしょにいられたらいいのになー……」
「大好きなセンパイと、ずっと一緒に……」
「……そうですよ。大好きです」
「センパイの反応見るのおもしろいし、すぐ照れちゃうとことかかわいいし」
「すねないでくださいよ~。あとは……真面目で、優しくて、こんな面倒なわたしにもかまってくれて……」
「……センパイは、わたしのこと好きですか?」
「! 好き? ……ほんとうですか~?」
「だってセンパイ、わたしといても他の人ばっかりみてるじゃないですか」
「……なんですか? ちゃんと言ってくださいよ」
「恥ずかしくて、つい目をそらしちゃう?」
「……そうですか。そうなんですね~! えへへ~」
後輩がセンパイの背に顔をつける。
「ふふ~。センパイ、ドキドキしてるのきこえてますよ~」
「じゃあ……その……これからわたしとセンパイは、恋人同士ってことで……いいですか?」
「? なんですか?」
「もう少し、自立できるようになるまで待ってほしい……?」
「なんですかそれ~。わたしはそんなの気にしないし、センパイとずっと一緒にいたいのに」
「一緒にいたいからこそ、俺がもっとしっかりしなきゃ? 真面目ですか~?」
「え? ……そしたら今度は、俺からちゃんと告白させてほしい……?」
「も、もう! なにまた恥ずかしいこと言ってるんですか! センパイ、わたしのこと好きすぎませんか~?」
「……まあいいですよ~。わかりました。センパイがそこまで言うなら、待ってあげます」
「でも、あんまり待たせるとわたしもどこかに行っちゃうかもしれませんからね~」
「……ふふ~、冗談ですよ~。安心してください」
「――ん? どうしたんです?」
「だから大丈夫ですって~。明日になったらわすれてるなんて、そんなわけないですよ」
「それに、もしわすれても……この気持ちは、かわりませんから……」
「…………」
「……ふぁ? ねむくないれふよ……。ただ、ちょっとだけ……あんしん、して……じゃなくて、おさけが、まわっちゃってるだけで……」
「…………すぅ…………すぅ…………」
「…………」
「……せんぱーい……」
「……だいすき……ですよー……」
「…………すぅ…………」
【おしまい】
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素直になれない押しかけ後輩がからかってくる 吉宮享 @kyo_443
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