第3話 後輩のお膝の上で

 センパイが目を覚ます。衣擦れの音がする。


「起きましたか、センパイ」


「気持ちよさそうに眠ってましたね。もう夕飯できてますよー」


「顔が近い? それはそうですよ。センパイ、今自分がどういう状況かわかってます?」


「ひゃっ! ……くすぐったいですよぉ。頭動かさないでください」


「わからないんですか? もしかしてまだ寝ぼけてます?」


「センパイは今、私の膝の上で寝ているんですよ。膝枕です」


「だめです。起き上がらないでください」


「もー、言う通りにしないと、私の手料理食べさせてあげませんよ」


「せっかくおいしそうな匂いがするのに残念? わかりますかー」


「早く食べたい? そうですね、冷めちゃう前に――って、その手には乗りませんよ」


「だいたい、どちらにしても温め直さなきゃなんです。誰かさんが眠ってたせいで、きっともう冷めちゃってますから」


「まったく。私がセンパイのために甲斐甲斐しく料理をしていたというのに、その姿を見もせずに寝ちゃうんですもん」


「仕事の疲れが取れてないんじゃないですか? 帰りが遅いのに夜更かしなんてするからですよ」


「だから私なりに、いつも頑張ってるセンパイのために一肌脱いでるんです」


「おとなしく、私の肌で存分に癒されてくださいねー」


「それともセンパイ、私の膝枕、嫌ですか?」


「ふふっ、その反応、嫌ではないみたいですね。いつでも使っていいんですよ。センパイが望むなら、私の膝はセンパイ専用の枕ですから」


「からかってないですよー。これは私の本心です。――なんて言ったら、センパイ信じますか?」


「つれないなー」


「…………」


「……センパイ、緊張してるんですか?」


「力入ってるのが伝わってきてますよ。これじゃあ全然休まらないですね」


「一回深呼吸してくださーい。すー…………はー…………」


「そのままですよー。力が抜けてきてますね。その調子です」


「もっと気持ちよくなってもらいたいので、なでなでしてあげますねー」


「どうですかー? リラックスできてますかー?」


「まるで子どもみたいですねー」


「なんでですかね。センパイを撫てると、私の方まで落ち着いてくるような……」


「センパイから何か変な成分でも出てるんですかねー」


「……耳たぶ、やっぱりちょっとひんやりしてますね」


「でも、センパイ耳真っ赤ですよ」


「……私が冷ましてあげますねー」


 左耳に息を吹きかける。


「ふー」


「あ、ぴくってなりました。縮こまっちゃって、かわいい」


「え? やだなー、ちゃんと癒そうとしてますよー。気持ちよくないですか?」


 より近くから、左耳に息を吹きかける。


「ふー」


「さっきより反応が大きいですね。もっと攻めてみましょうか」


 さらに近くから、センパイの左耳に息を吹きかける。


「ふ」


「!」


 後輩がセンパイの左耳から一気に顔を離す。

 同時に、センパイも飛び起きて後輩と距離をとる。


「いま……え、うそ……!」


「え、唇!? 当たってないですよー! か、勘違いじゃないですかー?」


「だから勘違いですよ勘違い! 息です! ちょっと近すぎたから当たったように感じただけです!」


「あーセンパイ! 耳触らないで確認しないで! それ以上の追及は許しません!」


「何も起きてませんから! いいですね!?」


「そう、それでいいんですよ」


「……はぁ、さすがに今日はここまでですね、夕飯にしましょう」


 立ち上がり、センパイから離れる。


「料理温め直すので待っててください」




   ◆◇◆◇◆



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