幕間 素直になれない後輩ちゃん

 少し離れたところから声が聞こえる。


「よし、完成! ご飯も、炊けてますね。センパーイ、夕飯できましたよ――って、あらら。寝ちゃったんですか?」


 後輩が静かに歩いて近づく。


「センパイ、起きてくださーい。……むむー、これは起きなさそうですね」


「できたての料理を食べてほしかったけど……仕方ないですね」


「……」


「ふふっ。気持ちよさそうに寝ちゃって」


「――はっ。今ならセンパイになんでもし放題?」


「…………センパーイ、本当に寝てますよねー……?」


「…………」


「起きないと、ほっぺたつんつんしちゃいますよー。いいんですかー?」


 後輩がセンパイの頬をつつく。


「つんつーん」


「ぷにぷにー」


「……なんでセンパイ、こんなに肌の張りがあるんでしょう。ちょっと妬けてきちゃいますね」


「でも、目の下はうっすらくまができてたような……」


「……お仕事、大変ですよね。お疲れ様です。休日だからって、急におじゃましてすみません」


「――なんて、起きてるときに言わなきゃ意味ないですよね」


「だめだなー。センパイの前だとからかうような態度ばかりとっちゃって」


「もっと素直な態度でいないと、可愛くないですよね」


「…………」


「……センパイ」


 センパイの耳元で囁く。


「……好きです」


「…………」


 口をセンパイの耳元から放す。


「……はぁ……簡単に言えたら苦労しないのに……」


「こんなこと、恥ずかしくって面と向かって言えないよ……」


「センパイといるのが楽しくて……でも恥ずかしくて……照れ隠しでつい面倒な絡み方しちゃって」


「まあ、センパイをからかうのが楽しいのは本心ですけど」


「でも、抱きついて耳たぶ触ったり、急にストレッチさせたり……何やってるんだろ、私」


「こんなんじゃいつか嫌われちゃうよね。今だって鬱陶しいって思われてるかも……」


「……センパイ、今は彼女を作る気はないって言ってたなあ」


「こんなの、告白してもフラれるの確定じゃん」


「いや、諦めるな私。今は、ってことはセンパイだって恋愛に興味はあるはず。チャンスあるって」


「……でも、うかうかしてたら誰かにセンパイ取られちゃう……」


「社会人なら周りに綺麗な人や大人っぽい人がたくさんいるだろうし、センパイころっといっちゃうかも」


「子どもっぽい私なんか相手にならないよね……」


「……もっと頑張らなきゃ」


「もっとセンパイにドキドキしてもらわないと」


「それに、いつもお仕事頑張ってるセンパイをもっと癒してあげないと」


「そうだ。いいこと思いついた」




   ◆◇◆◇◆



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