第45話 レンジ・クロバネ、何者なんだ?

 アイユーブ学長は隠しているのか公然なのか定かでない琥珀の液体をぐいぐいと呷っていた。


「毎日毎日、上から下から横から私を責める奴しかいないのか!」


 荒れている。自分が下す日々の処分とは正反対の心情を吐露し続ける学長だった。呼び出されたギンが部屋に入るなりこの調子だった。話題はゾーイの件だけではない。


「誰も彼もが学問の府の独立を侵害してくるが、今回は守りきれそうにない。カンナビ連邦政府からだ。一方は身柄の引き渡し、もう一方は身柄の保護、こっちは君のお仲間からか? ということは、君のところにもすでになにか情報がきているはずだ」


 アカネマルとは随時連絡を取り合ってはいた。


「巧妙に出所を誤魔化しているが、要はカンナビの政府中枢から別々の相反した依頼、と言えば聞こえはいいが圧力がかかった。君は明らかにカンナビの政争に巻き込まれている」


 ギンはため息をついた。


「すまんが、どのみちこの件はわたしでは抱えきれないよ」


「しばらくアレクサンドリアを離れます」


「それしかないな。学内にあるオーパーツの保管は約束しよう」



 ミューズを退避するにあたっての諸々の打ち合わせを終えた二人が一息ついたときは夕方になっていた。


「庭でレンジ君と話したよ、鼻っ柱が強くてほとんど無視されたがね」


 レンジらしい振る舞いを思って、ギンが笑った。


「わたしも彼みたいなのは好きだよ」

 学長は余計なことを言ったというふうに顔の髭を撫でて続けた。


「レンジ・クロバネ、何者なんだ?」


「研究中なんですよ」


 ギンの返事に、はぐらかされたと思ったのか学長は鼻を鳴らす。


「オーパーツです。本当に、いまはそれしかわかっていません」


 アイユーブ学長はうなずいた。

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