第44話 地味な動物たちとツクネ
ますますカラフルに珍妙に、ひとまわり大きくなったツクネは、地味な動物たちが集められた農学部の檻の中で一人陽気だった。その日は隅っこで一点を見つめて動かないカピバラを突っついて遊んでいた。
レンジを見つけると無邪気に走り寄ってくる。彼の胸ぐらいの高さの柵を飛び越えようとして羽ばたいて激突して落下して、しばらく地面を転げ回った。
「なにをしてるんだおまえは」
起き上がったツクネは嬉しいのかなんなのか、羽を広げて何度も垂直に跳ねている。
レンジは柵の中に両腕を差し入れてツクネを抱こうとする。ツクネはレンジの腕に乗ろうとして飛びあがってきたが、ひとまわり大きくなった自分の首の長さを失念していたのか、目測を誤ってレンジの額に嘴を突き刺した。レンジは思わず叫んで後ろにひっくり返った。故意ではないと信じたい。
不可解な動きをしているレンジに寄って、アイユーブ学長が声をかける。ツクネはわずかに警戒した風を見せて柵から少し距離をおいた。地面を突っついたりしながらその辺をほっつき歩く。横目で二人をうかがうような様子にも見える。
二人は柵に肘をかけて地味な動物たちを眺めた。
レンジがツクネに突き刺された額に指を当ててみると、ほんの少し血が滲んでいた。
「わたしが君ぐらいの頃は、自分の倍も歳をとった人間はみんなつまらなくて醜くて偽善者で話す価値すらないって思っていたよ」
学長が黄昏た風に語りだす。
「自分がそのぐらいの歳になると、当時のわたしはつくづく正しかったと思うね」
「そうですか」
レンジは心のこもらない返事をする。
ツクネは友達らしいアホみたいな顔をしたアリクイの毛繕いを始めた。アリクイは迷惑そうだ。
「わたしの仕事は君たちの翼を折ることだ、別の世界へ飛んで行かないように。だから、大人の言うことは聞くな、君らの方が美しい。わたしが君達に送る言葉の精一杯だ」
レンジは無言で学長の次の言葉を待った。
「しばらくミューズを離れてもらう、いつまでかはわからない」
「ツクネ、お別れだ」
ツクネは顔をあげてレンジに近づいて、首をかしげた。解放されたアリクイはお尻を振りながらもたもたと逃げていく。いつのまにか場所を移動していたカピバラは相変わらず生きているのか死んでいるのかわからない。
レンジは最後まで学長の目を見なかった。
「君たちを受け入れることができなくて、情けない」
ヒゲモジャは本当に泣き出しそうな様子で言った。
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