第37話 レッド2 それはきっと恋だ

「ゾーイって女の子がすごく綺麗なんだよ。見てるだけで、どきどきするぐらいなんだ、ほんとに。声なんか音楽みたいでさ、あんな顔、あんな体見たことないよ、いつも見てるけど」


 居酒屋マンボゥのいつもの席でレンジはレッドに熱弁している。


「天使かなにかかもしれない! 空から落っこってきたんだよ、痛くなかったかなぁ」


「レンジ、それはきっと恋だ」


「恋か、恋とは?」


「おい、みんな! ここに童貞がいるぞ」


 レッドが声をあげると、近くの席ですでに酔っ払って突っ伏しているアヌビス族と連れの太っちょが、うぉーい、と酔いどれ声をあげた。


「いいかレンジ、おまえの恋路に水を差すつもりはないけど、奴らは断じて天使ではない」


「天使ぞ!」


「違うって言ってんだろ! よく聞け、ポテトサラダを食べていいから。危なっかしいなおまえは」


 レッドは楽しげに皿をレンジの方に押しやってから、紫がかった黒目に真剣な色を浮かべて語った。


「連中は毎月一回好きな男に喧嘩をふっかけてくるわけのわからない生き物なんだよ、あんなぷよぷよのくせに。どっちかっていうと天使より悪魔に近い。しかも! 楽しいことと気持ちいいことと美味しいもの以外一切興味ないんだよ、一切だ、ほんとだぜ」


「そうなのか? ゾーイはなに考えてるかわかんないようなところあるけど、チンチラはそんな感じかなぁ、でもショコラは……」


「おい、意外に女の子の知り合いが多いじゃないか」


「その子たちとアカネマルぐらいだよ」


「アカネマル?」


「モガディシュで会った、えらい政治家らしいよ。ゴシック魔人、あれは悪いことにしか興味ないね」


 この少年がカンナビ連邦の与党幹事長と知り合いだとは思えないけども嘘をつくやつでもなし、まあいいか。


「なあ、レンジ。おまえはほんとにどこからきたんだ?」


「だから異世界だって」


「始まったよ」


 むきになって主張するレンジをレッドは楽しそうに眺めて杯をすすめた。

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