第36話 ゾーイは人に拒絶されたり悪意を向けられた経験がない
焼き鳥を食べ尽くした後に、二人は日当たりが良くてあまり人が通らない校舎の裏に足を運んだ。ほんの狭い区画にゾーイが作ったささやかな菜園がある。ハーブをはじめとした何種類かの作物が植えられている。二人でしゃがみこんで間引きをしたり畝の手入れをした。枝豆と唐辛子が実ってきている。
ゾーイは教室で浮いているのかもしれない、衣装が浮いているのは最初からにしても。
「微妙な空気だったな」
「最初は仲良くしてくれたのに、急に口聞いてくれなくなったり……どうしてかな」
教室の空気に戸惑っているゾーイだった。レンジにはなんとなく様子の想像がついた。
ゾーイは人に拒絶されたり悪意を向けられた経験がない。群れの序列を争って悪意に悪意を返すような下々の人間関係には戸惑うばかりだろう。人が集まればどこも同じか。レンジは現世の教室の人間関係を思い出してうんざりする。
立ち上がって伸びをしてゆっくりと息を吐いた。澄んだ空気に木漏れ日が射して鳥の声が心地いい。現世では鳥の鳴き声に気がつかなかった、どこでも鳴いていたはずなのに。
「ゾーイ、髪の毛が地面についちゃうよ」
鬣のように広がる薄桃色の長髪の先が、葉っぱの先に触れている。レンジは正面から腰をかがめてゾーイの髪に触れて軽く持ちあげる。絹のような手触りの髪はさらさと手のひらを滑って無限に光彩を変化させた。
ゾーイは、長いと乾かしたりするのも大変なんだけど、と言いながら立ち上がる。レンジに髪の毛を触らせたまま、
「短くしたらね、ハリネズミみたいになるの」と言って笑った。
目も口も大きい派手顔のゾーイが笑うと、豊かな胸と一緒にキラキラ光るアクセサリーも一斉に揺れて、周りの空気が一緒に躍動するように明るくなる。特別なエネルギーが発生しているように感じる。
ゾーイが周りのみんなに本当に愛されて育ったことがレンジにもわかる。この娘を通して、この娘を愛した、たくさんの家族と友人の愛情が溢れて伝わってくる。レンジは切なく想う、ゾーイみたいになりたかった。
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